東欧鉄道メーカー苦戦に忍び寄る「中国の影」 製品は好評だが経営基盤脆弱で買収の標的に

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中国中車は、現在も欧州をベースにするメーカーの買収を目指している。狙いは、欧州へ鉄道車両を売り込むにあたってベースを欧州に置きたいことと、欧州でビジネスを展開するために、中国とは違った技術的ノウハウが欲しいからだ。

日立がイタリアのアンサルドブレダを買収したことは記憶に新しいが、この買収によって日立は欧州大陸側に製造拠点を構えたことに加え、信号システムの大手であるアンサルドSTSを手に入れることに成功、欧州での地位を確かなものとした。

そういう意味では、ペサが中国中車の次の標的となる可能性もあった。ペサはインフラに関する技術は持っていないが、工場はポーランド国内にあり、従業員の賃金も西欧諸国と比較すれば低く抑えられたはずだからだ。ただ、こちらはそういった話が出る前に政府が介入して経営問題を解決した。

今後の中・東欧企業の戦略は?

中国企業が悪いということではないが、欧州での中国や中国製品に対するイメージは決してよくはない。今やアメリカに次ぐ経済大国へと成長した中国だが、製品の品質や精度については、まだ欧州諸国のメーカーと比べて勝っているとは思われていない。前述のシュコダ買収回避は、地元の有力企業をなんとしても守りたいという、チェコ国民の意志の表れとも言える。

ワルシャワ・ショパン空港駅に停車中の都市圏鉄道SKM向け低床式近郊電車「Elf」。ポーランド国内向けに納入され、現在は「Elf II」へと進化している(筆者撮影)

中・東欧地域には、シュコダやペサのほかにも、前述のポーランドのネヴァグ社やクロアチアのコンサール社など、中小規模のメーカーがいくつも存在している。アルストムとシーメンスのように、かつてはライバル同士だった大手メーカーですら生き残りをかけて合併するこの時代、今後もメーカー同士のさらなる吸収・合併が加速していくものと予想される。

この厳しい状況を生き残っていくうえで、中・東欧メーカーがどのような舵取りをしていくのか、そして欧州進出をあきらめていない中国がここへ割って入ることができるのかが注目される。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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