巨大新工場に逆風、揺れる液晶シャープ
10月中旬、米流通最大手ウォルマートの店頭で、シャープの32インチ液晶テレビが498ドルの激安価格で売られ始めた。同じ棚に並ぶソニーの液晶テレビは638ドル、薄型テレビ最大手の韓国サムスン電子のいちばん安い機種でも600ドル近くし、円換算で5万円を切るシャープの価格は中国メーカーや無名ブランドの商品と大差ない。「うちはあくまで利益重視。海外でも安売りで目先のシェアを追うようなまねはしない」。そう言い続けてきたはずのシャープに、何が起きたのか。
巨大工場の稼働を前に液晶テレビ市場が激変
その背景にあるのは、2009年度中の稼働を予定する新工場の存在だ。大阪府堺市で建設中の同工場は、3800億円もの巨費を投じるテレビ用大型液晶パネルの最新鋭工場。世界初となる畳5枚分の巨大ガラス基板をラインに流し、一度に大量のパネルを切り出す。シャープが大型液晶パネルで韓国・台湾勢から主導権を奪い返す戦略工場だ。
当然、巨額投資には大きなリスクが伴う。新工場の生産能力は、大型の40インチ換算で年間1200万台分超。一方、シャープの07年度の液晶テレビ販売実績は825万台で、目先は既存の三重県・亀山工場の設備能力で間に合う。あんな巨大な新工場のキャパをどうやって埋めるのか--。昨年夏に建設計画が発表されると、周囲から不安の声も相次いだ。
すると今年2月、シャープは薄型テレビ世界2位のソニーを自陣に引き入れ、業界を驚かせた。両社は新工場を合弁会社(出資比率はシャープ66%、ソニー34%を予定)とし、出資比率に応じて双方がパネルを引き取ることで基本合意。「強いパートナーとタッグが組めた。これで新工場は短期間で操業度が上がり、圧倒的なコスト競争力が手に入る」。記者会見でシャープの片山幹雄社長は、報道陣に満面の笑顔を見せた。
しかし、ソニーとの電撃的な提携発表から8カ月が経過した今、状況は大きく変わりつつある。堺新工場で作るパネルの3分の1はソニーが買い取るとしても、シャープは残る3分の2、40インチ換算で年間800万台分ものパネルを新たに消化する必要がある。同社は他のテレビメーカーへの外販と自社の液晶テレビ販売拡大で吸収する計画だが、そのシナリオ実現が怪しくなってきたのだ。
前年同期比35%の営業減益となったシャープの9月中間決算。大幅減益の直接の引き金は携帯電話事業の不振だが、屋台骨を支える液晶関連事業にも「異変」が見て取れる。2ケタ成長が常識だった同社の液晶テレビ売上高は前年対比で1%減と、初めて前年割れに陥った。ソニーなどの世界有力メーカーが上期に販売台数を5割以上伸ばす中、シャープの台数伸び率は3割弱で、単価下落も目立った。また、9月末の在庫は3月末に比べて14%(金額で610億円)増え、増加分の7割以上を液晶テレビとパネルが占めている。