安倍首相vs石破氏「改憲」と「政治手法」で激突 14日に行われる公開討論会が最大のヤマ場に

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首相サイドからは「最終的には、どの議員の系列党員・党友がどちらに投票したかはわかる」(二階派幹部)との声も出ており、「今回は投票率も6割程度で、浮動票はせいぜい20万票程度」(党事務局)とされるだけに、「議員や自民支持団体の影響が大きく、劇的な変化は期待できない」(同)とみられている。

こうした事情から、今回の総裁選は「幕が上がった時には、芝居が終わっていた」(自民長老)という文字通りの消化試合となっている。これは、「出馬を目指した岸田文雄政調会長に圧力をかけて撤退宣言させ、最後まで粘った野田聖子総務相も抑え込んで両氏の安倍支持も取り付けた」(細田派幹部)という首相サイドの「周到で強かな3選戦略の成果」(無派閥有力議員)でもある。石破陣営からも「こんな孤立無援の戦いになるとは思っていなかった」(若手)との愚痴ももれてくる。

総裁選告示直後に日本だけでなく世界的な話題となったのがグランドスラムの1つ、全米オープンテニスでの大坂なおみ選手の優勝だった。日本のテニス史上初の快挙で、「絶対女王」とされたセリーナ・ウイリアムズ選手を撃破した直後の「涙の勝利コメント」は、その純粋さとウイットが世界で絶賛され、列島にも感動と祝福の嵐をもたらした。

だれもが「予想外」と口をそろえた大坂選手の勝利を、石破陣営司令塔の吉田博美参院幹事長(竹下派)も「絶対に勝てないといわれた中、ひたむきに全力で一生懸命頑張った結果、考えられないような結果が出た」と称えたうえで、「われわれは(勝利を)あきらめたわけではなく、しっかり当選を期しながら取り組んでいかなければならない」と陣営の奮起を促した。だからこそ、「首相サイドが仕掛けをしにくい記者クラブでの公開討論で、なんとか一矢報いたい」(側近)と活路を求めるのだ。

首相支持派では「昭恵さんの毒饅頭」が話題に

そうした中、色分けが明確になっている党内各派の事務所では、告示日前後からそれぞれ選対本部が設けられた。数十人の所属議員秘書たちが連日事務所に出動して、入手した党員・党友名簿を基に、臨時架設電話で電話をかけて、支持候補への投票を訴えている。特に、首相支持の派閥で目を引くのは、大量に届けられた差し入れの飲み物、お菓子が詰め込まれた段ボール。そのほとんどは「森永製菓」の製品だ。首相の昭恵夫人は森永製菓創業者の家系だけに、口さがない秘書は「昭恵さんの毒饅頭みたい」と苦笑している。

首相の「政界の師」でもあり、現職として戦った2003年の総裁選で圧勝したのが小泉純一郎元首相だ。その時の自民党本部での投開票時に出席議員の間に「詠み人知らず」として出回ったざれ歌が「毒饅頭を食えもせず、小泉某と書くぞ悲しき」だった。もちろん、永田町で言う「毒饅頭」は「カネか人事の約束」(自民長老)だが、今回はそれがお菓子に例えられるあたりが「消化試合の茶番劇の象徴」(同)と、自嘲の声が党内に広がっている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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