ラデューク氏の演奏するユーフォニアムという金管楽器と、受験したポジションの担当楽器であるトロンボーンという金管楽器は、マウスピースの大きさが似ているため演奏法の基礎的な部分は「互換可能」ではある。
しかし、プロのレベルになると両方をプロレベルに、というのは難しい。
ラデューク氏も、ヒッツ氏の言うように、トロンボーンを必要なレベルまで習得できなかったが、自らの楽器・ユーフォニアムの腕と、アンサンブルの事業の未来についてのプレゼンで挑戦した。
この時点で、クラシック音楽の世界における一般的な価値観からずいぶんと逸脱している。
そして何より、これで世界的なグループへの参加を勝ち取ってしまったのだ。
ラデューク氏の挑戦する姿勢と、ビジネス・マーケティングに関する卓見を評価できるというところに、わたしはこのボストンブラスというグループの「起業家性」を感じる。そのメンバーにヒッツ氏がすでになっていたというのも、必然なのかもしれない。
演奏家の経験と人脈を活かしたビジネスのビジョン
ヒッツ氏はラデューク氏との出会いをきっかけに、やがて2人で新しいビジネスを始めるべく思索を重ねていくことになる。
その産物として生まれたのが「Pedal Note Media」というプロジェクト兼ブランドだ。アメリカの優れた金管楽器奏者たちへのインタビューをするポッドキャストや、学校ブラスバンドの指導者向けに、楽器ごとのエキスパートたちへのインタビューを集めて指導に役立つ形にまとめた本のシリーズを製作していくこととなった。
これらはヒッツ氏とラデューク氏の、演奏家としての実力とキャリアがあってこそ培われた、演奏家たちからの信頼と人脈があってこそ可能になっているものであり、アメリカのトッププロ奏者の多くがリスナーでもある。
プロレベルの楽器演奏能力を身につけ、オーケストラやアンサンブルで演奏するためのさまざまな能力(音を聴いて判断する力、タイミングを合わせる力、音程や音色を適宜変化させ適応していく力……)を身につけるには、多大なる時間と労力がかかる。一般教養や社会人としての常識を身につける余力が残されないほどのことだってある。
しかし、プロ演奏家にふさわしい演奏能力を身につけても、決して演奏家としての仕事や地位が保障されているわけではない。
そのとき、わたしたち音楽家はどうするのか?
クラシック音楽に理解や市場のない国・社会・環境を恨むこともできるのかもしれないが、音楽で生きていきたいわたしたちにはそんな暇はない。
そこで、ヒッツ氏の「起業家的音楽家」という見方が大きな力を持つのだ。
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