音楽家が「起業家」に変身することはできるか ホルン奏者バジル・クリッツァーの連載第1回

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小さい頃から音楽のレッスンを受け、クラシック音楽の正統的な勉強を重ねていき、20代半ばで世界的に有名かつ人気のあるグループのメンバーとなったヒッツ氏であるが、彼が音楽を学んだ1990年代はアメリカの音楽院や大学の音楽学部で「ビジネスを学ぶこと」はまったく重要視されていなかったと本人はよく述べている。

音楽大学で学ぶべきは、とにかく音楽。やるべきことはとにかく練習。それ以外のことは、「余計」なこと。

そんな価値観や雰囲気が当たり前であったとのことだ。日本でもまだまだそうだし、わたしが学んだ2000年代のドイツの音楽大学でもそうであった。少なくとも、わたしの周りはそうであった。

新たなメンバーとの出会い

そんなヒッツ氏は、いかにして「起業家精神」に目覚めたのか。そのきっかけになったのは、ボストンブラスに迎えた新たなメンバー、ランス・ラデューク氏との出会いである。

――『ランスはユーフォニアム奏者なんだけれど、ボストンブラスのメンバーになるためにトロンボーンに挑戦したんだ。世界的にも優れたユーフォニアム奏者で、空軍バンドも歴任している。

それなのに、ボストンブラスのオーディションにトロンボーンで受験しに来たんだ。トロンボーンに挑戦して7〜8カ月後のことだよ。トロンボーンとユーフォニアムの両方の演奏を披露してのオーディション受験だった。

受験者の中では、トロンボーンの使い手としては断然最下位だった。挑戦してたった数カ月という点では驚異的に上手だったけれど、他のトロンボーン受験者も非常に優れたトロンボーン奏者たちだっからね。

でもランスは合格した。

それはなぜか?

ひとつは、受験のために新しい楽器に挑戦し、短い期間での習熟ぶりに驚かされたから。

もうひとつは、面談でボストンブラスの事業としての未来やマーケティングの計画を、既存のメンバー5人合わせて考えてきた中身よりはるかに深く徹底して詳細に考えてきてそれをプレゼンしてくれたからなんだ!

事業プランの言語化もすばらしかったし、彼のプレゼンを聞いていて、「こいつを雇わないのは甚大な損失なんじゃないか?」と思えてきたのを覚えているよ。

「受験者の中でこいつがベスト」ではなくて、「コイツこそを雇わなきゃいけない!逃すわけにはいけない!」と思わせてくれたんだね。

わたしたちのグループとしての未来を見せて、考えさせてくれたんだから』――。

クラシック音楽の世界「オーディション」というものは、主にオーケストラやアンサンブルの入団試験のことであり、通常ここで求められるのは厳密に演奏能力の高さと、オーケストラやアンサンブルのスタイルとの相性である。

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