しかしその後席からも運転席は見えるわけで、仕立てに格差は付けられない。欧州車のウォールナットとは違う、柾目(まさめ)材を起用したウッドパネルは端正な雰囲気を与え、木造建築を思わせる水平基調のインパネが落ち着きを加える。
運転席に移ると、スイッチが整理集約されているうえに、タッチ式ではなくボタン式にこだわっていることに好感を抱いた。この点もハイエースやランドクルーザーに通じ、ドライバーズカーとしてもプラスになるだろう。
今回、筆者はこの新型センチュリーに、主としてドライバーとして接した。かつては運転手付きが当たり前だった英国のロールス・ロイスは、近年ドライバーズカーとして乗るユーザーが増えており、以前からオーナードライバー向け高級車だったベントレーは、その傾向をさらに強めているからだ。なにしろ両ブランドともSUVまで出しているのだから。
だからこそショーファードリブンという立ち位置を維持し続けるセンチュリーが際立つし、日本国内専用の量産車としてカタログに載せるトヨタの底力を思い知らされるのだが、「新型センチュリーはドライバーズカーとしてはどうなのか?」という気持ちも一方にあった。
新型は眺めるだけでなく走らせる喜びも
新型は歴代初のハイブリッドカーになった。旧レクサスLSから受け継がれた5リッターV8エンジン+モーターで、電動化ではロールス・ロイスやベントレーに先んじた。
Dレンジを選んで走り出すと、まずは静かさに圧倒される。東京都心の夜の道を、他車に囲まれて進んでいるのに、もっとも目立つ音は助手席に置いた、カタログが入った紙袋が立てるカサカサという響きだった。
ところが終始無音というわけではなかった。アクセルペダルを大きく踏み込むと、このうえなく上質で滑らかなV8サウンドが、かすかに届いてきた。それを知った瞬間、空いた道を探して踏み込みたくなる気持ちになった。快音だった。
前後ともマルチリンクにエアスプリングを組み合わせたサスペンションは、予想どおりソフトだ。唐突に停止すると車体がフワフワ揺れるほどである。でもこのゆったりした揺れは、フランス車を多く足にしてきた自分にとって、進んで味わいたくなる種類のものだった。
それにブレーキは十分な効きを示すし、ステアリングは軽いが反応は正確で、極上の静けさと柔らかさをもたらしつつ、予想以上に意のままに走っていける。日本の制限速度内であれば何の不安もなく、心地良さだけを感じて移動していける。
筆者は走りの楽しさは速さとは比例しないと考えている。むしろ今の時代に大事なのは、日常的なスピードでも満足できるクルマではないかと思っている。そんな自分にとって新型センチュリーは、眺めるだけでなく走らせることも喜びだった。
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