アメリカで「アジア人の映画」大ヒットの理由 「クレイジー・リッチ!」は人種を超えるか
―― 物語はあなたが育ったシンガポールの超富裕層の世界を舞台にしている。子ども時代に見たなかで、富をひけらかす行為として最もいやらしかったのはどんなものだったか。
『クレイジー・リッチ・アジアンズ』の中でも書いたけれど、個人的な悲劇に見舞われたばかりの家族がいる。そこにキリスト教徒のカウンセラーがやってきて、中国的だったり、竜や偶像が付いているものすべてを破壊する。私は当時10歳で、巨大な邸宅で壺が床にひっくり返されるのを横で見ていたのを覚えている。メイドたちは泣いていた。彼女たちが一生かかっても稼げないような資産がまさに目の前で壊されているんだ。おまけに破片を片付けるのは彼女たちだ。作り話じゃない。
制作会社に権利を1ドルで売り出したワケ
――この本にはそうした行き過ぎた富の文化に対する風刺も込められている。他方、ハリウッドは富を賛美するのが大好きだ。映画化されるにあたって、批判的な部分が消えてしまうことを懸念したことはあったか。
この点については、ジョンと非常に長い時間をかけて話し合った。退廃的な場面があるにせよ、大事なことはその先に見えているという彼のビジョンはわかっていたし理解もできた。この物語で本質的に描かれているのは家族、カップル、母と息子の関係だ。本当にクレイジーな豊かさも描かれてはいるけれど。
――本の映画化権を高い金で売ることもできたのに、あなたは制作会社に1ドルで譲り渡した。その金の使い道は?
実を言うと、実際に受け取ったわけではないような気が。基本的に、私はできるだけ扱いやすい取引相手になろうとした。お金のせいで物事がうまく進まなくなるのは嫌だった。お金は優秀な脚本家を雇うのに使って欲しかった。
私にくだらない原作使用料を払うくらいなら、私の本を見事に映画にしてくれるほうがよかった。それに、お金をもらわなかったおかげでプロセス全体でパートナーとして参加することができた。それだけの価値はあった。