安倍首相はもう総裁選後の「改憲発議」へ邁進 各党も石破氏との「憲法論争」に注目するが

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すでに再選後の「改憲発議」へ向けて党内に発破をかける安倍首相と「改憲論争」を挑もうとする石破氏(撮影:左・尾形文繁、右・梅谷秀司)

お盆明けの永田町は9月7日告示・20日投開票という自民党総裁選日程が決まったことで、現職の安倍晋三首相と石破茂元幹事長による対決が本番を迎える。とくに、首相が総裁選での「最大の争点」と位置付ける憲法改正をめぐる論争の行方は、首相の3選を前提とした秋以降の政局展開を左右する可能性が大きく、与党の公明党だけでなく野党各党も注目している。

首相はすでに秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出する意向を明らかにしているが、石破氏は「スケジュールありき」と反発している。改憲への手順や手法については、自民党内でも意見が割れており、総裁選候補による公開討論などでも、首相と石破氏が舌戦を繰り広げるのは確実だ。首相としては総裁選で石破氏を大差で破ることで、自らが主張してきた「安倍改憲」の正当性と、改憲案の早期国会発議への道筋をつけたい考えだ。

ただ、総裁選後に自民党が結束したとしても、「安倍改憲」そのものに反発する野党側の激しい抵抗は避けられず、与党の公明党も慎重。そのため、改憲発議をめぐる衆参両院憲法審査会での各党協議は難航必至だ。首相サイドは「改憲の旗を高く掲げることが1強体制の維持につながる」(細田派幹部)と強調するが、総裁選での石破氏との改憲論争と選挙結果は、3選後の首相の政権運営にも影響を及ぼす。

臨時国会での改憲案提出を「あり得ない」と石破氏

首相が改憲の早期実現に踏み込んだのは、12日に山口県下関市内で開かれた長州「正論」懇話会の設立5周年記念会での講演だった。「安倍改憲」と呼ばれる自衛隊の憲法9条での明記を軸とした改憲案を「自民党として次の国会で提出できるよう取りまとめを加速する」との考えを示したからだ。総裁選後の10月初旬にも召集予定の次期臨時国会での改憲案提出を党総裁の立場から明言することで、党内論議を加速させる狙いがあるとみられる。

首相はこの講演で、「憲法改正は自民党の立党以来の党是」として、9月の総裁選に絡めて「誰が総裁になろうとも、その責任を果たしていかねばならない」と力説。さらに、総裁選が「党員の間でしっかりと議論を深め、一致団結して前に進むきっかけとなることを期待する」として、「9条改憲」を総裁選の争点とすることで、首相が3選を果たせば自民党が一体となって改憲発議に突き進むべきだとの考えを強調した。

これに対し、石破氏は16日の石破派会合で「9条は国民の理解なくして、改正することがあってはいけない。(秋の臨時国会での自民改憲案提出は)ありっこないし、あり得ない」と猛反発。「秋に出すというのは、先にスケジュールありきで、民主主義の現場を理解していないとしか思えない」と口を極めて首相発言を批判した。

石破氏は自民党が野党時代の2012年に党議決定した同党改憲草案の起草者の一人でもあり、首相が2017年5月に打ち出した「戦争放棄と戦力不保持」をうたった9条1、2項を維持しての3項などでの「自衛隊明記」には反対だ。「総裁が9条1項、2項をそのままに自衛隊を明記したいとおっしゃった時、イスから転げ落ちるほど驚いた」と語る。その上で「(自民党内で)1回もそんな議論は出たことがない。『(首相の改憲案を報じた)新聞を読め』というが、党員に向かって真剣に語ってもらいたかった」と首相の独善的手法を厳しく批判した。

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