第一人者が語る、がん「個別化医療」の将来像 中村祐輔氏が始める新プロジェクトとは?
全国にあるがん拠点病院は、国立がん研究センターを中核として標準治療を行うことが求められており、それ以上のことはしない。腫瘍(しゅよう)内科の医師らに「これ以上できる治療はないので、元気のあるうちに人生を楽しんで」「海外旅行をしたり、おいしいものを食べたりして」とか言われても、海外旅行を楽しめるのも、おいしいものを味わえるのも、生きる希望があってこそだと思う。
「がん難民」を見捨てないことも責任
また、日本には抗がん剤治療を受けたくない人たちが一定数いる。標準治療を終えたり、拒否したりすると、患者さんは即座に「がん難民」となってしまう。こういった人たちを見捨てず、救える命を救うことも国の責任ではないのか?
私たちが目指している、がん遺伝子変異をターゲットとした免疫治療は、患者さんの免疫細胞が元気で数もたくさんある条件のほうが効果が出やすい。ところが、現在の仕組みでは、免疫細胞がすっかり弱った頃になってやっと新しい治療へのアクセスが可能となる。こんな理屈に合わないことをやっていては免疫療法の評価は難しい。
また、治験の最終段階では二重盲検試験(患者をプラセボ群と治験薬投与群の2グループに分け、誰に本物の開発薬が投与されたか患者本人にも医師にもわからないようにして行う試験。客観性が高いとされる)が必須だが、治験に参加できるのは一定の標準治療で効果がなかった患者さんたちに限られる。治験の初期段階で高い有効率を示した治療薬に関して、わらにもすがる思いで治験に参加した患者さんの半数をプラセボ群にするのが倫理的に正しいとは思えません。米国では二重盲検でない治験はたくさんありますよ。
――プロジェクトでは何を目指すのですか?
まずリキッドバイオプシー(血液などの体液でがんの診断を行う。採血で済み、がん組織に針を刺さずに行う低侵襲性の検査)を使ってがんを見つけたり、最適の薬剤を見つけたり、再発をいち早く見つけたりすることを考えています。
――どのように進めるのですか。
がん研究会を中心に、全国にいる350人の弟子や仲間とのネットワーク、患者さんの団体にも協力してもらって、世界と競争できるようなゲノムのデータベースを構築したい。データの数は多いほどいい。これを解析して、患者さん1人ひとりに最適ながん医療を提供することができる。
個人的には小児がんや難治性がんのゲノムシーケンスから有用な情報を切り出していきたい。その際は全エキソーム(ゲノムの中でタンパクに関連する部分)の解析をやるべきだ。ゲノムは30億塩基対であるが、エキソームはその約1.5%の5000万塩基対と少ない。効率よくがん関連遺伝子の同定・解析ができ、がん治療に生かせる。
資金は現時点では確保できていないが、シカゴから覚悟を決めて帰ってきたのだから、いろいろ考えて実行に移す。産業界も巻き込んでいきたい。
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