「短編アニメ映画」の公開が相次ぐ本当の理由 ポノック劇場、詩季織々…製作経緯に共通点

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宮崎駿監督作品の中心を担った天才アニメーター・山下明彦監督の『透明人間』。わずか14分の上映時間の中に、スペクタルアクションがぎっしり詰まっている ©2018 STUDIO PONOC

「高畑さんとはジブリの制作部門が解散した後も会っていて、短編アニメーションの企画についても話をしていたんです。そのときに高畑さんがずっとやりたがっていた(が、実現はできなかった悲願の企画)『平家物語』の一部を7分だけ切り取っても作品として成立しますよねとお話しした。すると高畑さんの目が輝いて『できますよ。やりましょう』と言っていたんです」(西村プロデューサー)

新しい内容と表現を追求するために短編映画を作りたい、という思いは「やはり高畑勲、宮崎駿、両監督の近くにいたというのは大きいですよね」という西村プロデューサー。

結果として高畑監督の急逝により、参加は幻となってしまったが、プロジェクトは米林、百瀬、山下の3監督による競作として進められた。

高畑勲監督の右腕として活躍した百瀬義行監督の「サムライエッグ」。たまごアレルギーに悩まされる少年とその母の姿を描く ©2018 STUDIO PONOC

実際、スタジオジブリの作品は短編アニメがベースになっているものが少なくない。『崖の上のポニョ』は、その前に作られた3~4のジブリ美術館の短編作品が集積したものだといい、『風立ちぬ』で効果音を人の声でやるということがあったが、それもジブリ美術館の短編アニメーションで試していたことだったという。

新しいことにチャレンジするということ、それと同時に作品のクオリティはしっかりと担保すること。本作の制作には、その両軸に主眼が置かれた。「“運がいいことに”とあえて言いますが、僕たちが一緒にやるクリエーターたちは、テレビだろうが配信だろうが、どの媒体でも劇場クオリティで作る。つまり言い方を変えると、劇場クオリティでしか作れない。この3作品は予想以上にお金がかかりました」と、西村プロデューサー。

チャレンジできる場を自分たちで持たないと

もともとは配信でと考えていたという短編集だが、東宝配給による全国公開が決定した。上映時間は3本立てで54分、入場料は一般1400円を予定している。

西村義明プロデューサーはスタジオポノックの代表でもある (筆者撮影)

「短編アニメーションの『岸辺のふたり』が新宿武蔵野館で1年ほど上映していたことがあったので、この短編作品たちもそういう形で、1館でもいいので上映してもらえたらなといいなと思っていたんです。でも東宝さんにお話をしたら、100~150スクリーン規模でやろうということになって、驚きました」(西村プロデューサー)

東宝配給で短編映画を上映するのは、萩本欽一制作総指揮で1993年、1994年に公開された実写の短編オムニバス集『欽ちゃんのシネマジャック』という例があるものの、それでも異例のスタイルであることは間違いない。

CWFとスタジオポノック――。両社が短編アニメーション映画に向かったきっかけは違っているが、「物が売れない時代は、どの業種も数字を維持するために保守的になっていく。しかしそんな時代だからこそ、チャレンジできる場を自分たちで持たないと新たな場所には踏み込めない」と西村プロデューサーが語る通り、アニメ業界を底上げし、未来につなげたいという思いは両社に共通している。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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