──国内外で絶賛されたオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」は共産党の機関紙・プラウダから批判、攻撃されます。
本ではこのオペラに熱中する観客たちの姿を見て、「スンブール(荒唐無稽)」と叫んだスターリンの心の内を推理した。スターリン自身はこのオペラを19世紀のブルジョワ家庭のどろどろとした人間ドラマと理解していた。階級闘争の物語などと解釈して利用し、スターリンの一言をもって検閲の対象にしたのは取り巻きの連中だ。
芸術家はパトロンに2つの感情を抱く
──スターリンとショスタコーヴィチの駆け引きには恋愛関係のような印象も受けます。ショスタコーヴィチが、形式主義批判で自分を脅したジダーノフの失脚を見通していたのも驚きです。
芸術家は権力者、パトロンに対しては2つの感情を抱く。愛と嫌悪と。好きなようにやらせてくれているので恩義を感じる一方、過剰な自尊心からくる憎悪もある。その関係は非常に複雑だ。
スターリンにショスタコーヴィチの音楽が理解できていたかどうかは疑問だが、彼を芸術家として尊重していた。同時代の作家や詩人を弾圧し、粛清し、虐殺したが、音楽だけは不可侵だった。神の子のように思ってショスタコーヴィチに特権的な地位を与えていた。ショスタコーヴィチにもおそらく、スターリンが自分を愛しているという確信があったと思う。彼が罵倒していたのはむしろスターリンの取り巻きたちが牛耳る検閲権力だった。
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