一方では、学生にも、事前の研究を促す。「大企業ならではの働き方を知らずに入社を決める学生が多い」というのが、曽和氏の指摘だ。
人気企業=大企業とは言い切れないが、現実的に大企業に学生の人気は集まりやすい。学生が待遇や知名度、社会への高い影響度などに、魅力を感じるためだろう。しかし曽和氏は、華やかなイメージだけで決めてしまうと思わぬ落とし穴が待っている、と警鐘を鳴らす。
「学生に大企業を希望する理由を聞くと『大きな仕事ができるから』という声をよく耳にします。本当にそうでしょうか? 確かに取引額の規模など大きな仕事を扱いますが、1人の社員が担うのは、それを細切れにして小さくした仕事です。あくまで分業であり、任される範囲は狭い。仕事全体を見渡すような仕事は、ある程度の立場について初めてできます」
大企業は分業で、筋書きが決まっている
たとえば、「人事」の仕事を例にとると、大企業では採用と配属で担当は分かれていて、採用の中でも新卒と中途が分かれるなど細分化している。一方で、規模が小さな会社の人事担当者は、人事にまつわるすべての業務に加え、総務などを兼務している場合もある。
大企業は何千人もの社員を抱え、業務分担で効率的に成果をあげる強みを持つが、反面、若い頃から裁量権を持って仕事したい人には、デメリットにもなり得るのだ。
分業制であることに付随して、曽和氏は「『勝ちパターン』が決まっているのも大企業の特徴です。よほどの新規事業でない限り、売り上げを立てるための筋書きは、過去の経験から決まっていることが多いのです」と説く。
商品・サービスの開発や販売において、各自が戦略を練って提案することよりも、決まったプロセスをこなすことを求められる傾向にあるわけだ。
もう1つ、大企業の向き不向きを判断する指標として、曽和氏は”おじさんリテラシー”を挙げる。そして「年上や権力に物怖じせず、でも生意気にはならずに、懐に入り込める力です。簡単に身に付くものではないですが、意思決定の経路が多岐に渡る大企業で、自分の意思を通すには大事な能力です」と指摘する。
大手や人気企業に絞って就活することや、そこから転職することは決して悪いことではない。しかし、不本意な理由で辞めるのであれば、先に手を打てなかったのかと考えてしまう。大手を目指す動機が「その企業に入社すれば、周りからすごいと言われるから」だけなら、学生は1度立ち止まって考え直してほしい。すでに苦い経験をした先輩たちの声に耳を傾けて、より幅広い選択肢を考えてみてもいいだろう。
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