こうして小規模マンションでも再生できた アトラス渋谷公園通りに見る、建て替え成功のヒント

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風向きが変わったのは2006年6月。有志の住民が旭化成不動産レジデンス主催の建て替えセミナーに参加したことをきっかけに、計画が再び動き出した。翌年には、賛成多数で建て替え推進決議が可決。2009年にデベロッパー8社が参加したコンペにおいて旭化成不動産レジデンスが事業協力者に決まり、2010年9月に全員合意でようやく建て替えが決まった。

都心・小規模マンションゆえの課題

検討開始から全員合意まで実に7年を要した今回の建て替え。この歳月は、越えなればならないハードルがそれだけ多かったことを物語っている。

一つは、駅前の好立地であるがゆえの問題だ。せっかく商業地にあるのだから、住宅に建て替えて自分が住んだり他人に貸したりするよりも、商業ビルに再生して店舗として貸し出したほうが高い家賃が取れる。住み慣れた土地を離れたくないという住民がいる一方、懐に入るおカネが多いほうがいいと主張する住民もいた。

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建て替え後の共用部は、内廊下で2層吹き抜けにするなどして、高級感を高めた

さらに、下層階に店舗が入る、いわゆる「げた履きマンション」ならではの問題もあった。住宅と店舗だと建物に求める品質が異なるため、たとえばエレベーターがないことなど住民にとっては不便なことでも、店舗側にとっては許容範囲である場合は多い。建て替えによって休業を余儀なくされるよりも、そのまま営業を続けられたほうが店舗の大家にはメリットが大きい。結果、大家は建て替えに消極的になる。

しかし、何より問題だったのは権利者の少なさだ。建て替え決議には「5分の4以上の賛成が必要」と法律で定められているが、小規模マンションの場合は議決権の総数が少ないため、わずかな数の反対で否決されてしまう。

宇田川町住宅の建て替え決議で議決権を持っていたのは、16戸の住民と店舗の貸主である住宅供給公社。つまり、権利者の総数は17なので、たった4人の反対で否決されてしまう。

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