知識はあるが勇気のない、日本の「人格者」 山折哲雄×上田紀行(その5)

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上田:そういう意味では、実存主義って、この実存に立つということですよね。まさにここに立って、世界の風をビュービュー受けながら何かやるという感覚。

以前、たしか加藤典洋さんがこのようなことを言っていました。

ラグビーというのはすごいんだ。球を持っているヤツがとにかくオフサイドラインを走って行って、タックルされると、前には投げられなくて、自分より後ろに投げる。で、後ろのヤツが一生懸命走る。

つまり、俺はいちばん先端に立って時代を切り開いて行って、前に進んで行くときのビュービューという風きり音を聞きながら、熾烈なタックルを受ける中でゲームをやっているんだ、という意識がすごくある。それがやっぱり当事者性であり、主体なのではないかと。

その意識がなくて、スタートラインの後ろのほうで、いくら「俺はゲームをやったぞ、すごいだろう」と言っても、やっぱり先頭を走って敵地に行くためにやっているので、その意識を失ってしまうと、すべてのものがダメになるんじゃないかと。

教養に必要なのは、強さと勇気

山折:そのときに大事なのは、やっぱり強さと勇気だろうな。この2つがないと先頭に行けない。

上田:そうですね。先頭に行ったら、みんなが目の敵にしてタックルしてくるわけだから。だけど、そこに立つ。教養というのは、そういう意味では強さと勇気ですよ。

山折:特に勇気は非常に重要だと思う。勇気がなくて知識があるヤツほどつまらないものはない。

上田:教養ある人間は保身には走らない。勇気を与えられないと、学問すればするほど世間がわかって、攻撃されないところに逃げ込んでいく。保身の術に使われちゃったりすると、いちばんつまらないですよね。

山折:それを「人格者」という言葉で表現するわけだな。日本語の人格者というのは曲者(くせもの)でね、何にもしない人間が人格者と言われるんだ。

上田:アハハハハ。先生は毎年のように物議を醸してますからねえ(笑)。最近は皇太子退位論で。

山折:「不敬」と言われたぞ。そんな言葉がまだあるんだよ(笑)。不敬者だ、俺は。しかし、右から左まで、友人たちや教え子たちまで含めて、やっぱり皇室問題というのは、みんなタブー視しているということは痛感した。

上田:教養には強さと勇気が必要なんですよ。人間として太い根を張っているので、少々の風では倒れないぞという。

山折:そうだな。

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