日本人の「過剰適応」こそ、現代社会の象徴だ 池上彰×丸山俊一「資本主義の闇」対談<下>

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池上彰(以下、池上):過剰適応という言葉には、私も考えるところがあります。とりわけ丸の内、日本橋界隈では、みんな必死に働いて過剰適応しようとしています。その結果、人間として壊れてしまうという事例が後を絶ちませんよね。しかも、それを働き方改革と称してとりあえずの「時間短縮」という方法で対処しようとして、逆に問題が出てきたりする。

人々が過剰適応してしまった結果、いろんな問題が発生しているのに、夕方6時になるとエアコンが止まるとか、夜10時になると会議室の電気が自動的に消えるとか、単に時間短縮すればいいってもんじゃないだろうと思いますよ。そういう時に、ちょっと立ち止まって考えるきっかけになるのがこの本ではないでしょうか。

「歩みを楽しむカメ」のセンスを持て

池上彰(いけがみ あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。取材経験を重ね、後にキャスターも担当。「週刊こどもニュース」ではお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年第5回伊丹十三賞受賞。2016年第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『知の越境法』他(撮影:梅谷 秀司)

丸山:ウサギとカメの競争という寓話がありますよね。能力を持つウサギがサボっている間に、コツコツ努力していたカメが勝ちましたという話ですが、僕はこう考えてしまうんです――そもそも、カメは競争に参加しているという意識があったのだろうか、と。

歩みそのものを楽しんでいるうちに、いつの間にか勝っていて、ウサギが勝手に悔しがっただけなのではないか。今の我々には、もしかすると、ただ単に歩むことを楽しむカメのようなセンスが必要なのではないか、と。

番組の中でも、「リンゴを高く売ることに夢中になっているうちに、リンゴの味を忘れてしまったのか?」というコピーめいたナレーションを考えましたが、時代に合わせて、効率を追求するという働き方をしているうちに、無意識レベルで、全員がウサギになってしまったのではないか。そもそもその競争のレールは勝手に敷かれたもので、それに乗るのが果たして正しいことなのか、と、ここでも問いを共有したかったのです。

池上:アリとキリギリスの物語にも言えますね。ずっと遊んでいたキリギリスが、食べ物を求めてアリを訪ねてゆくと、アリが過労死していた。だからキリギリスはアリが一生懸命働いて集めたものを全部いただきました、と(苦笑)。

ただ、すごく皮肉に感じたのは、働き方を考えたり、もう少し給料を減らしてもゆっくり過ごしたいというようなことは、金持ちだけが考えることだというところ。豊かになったからこそ、逆にそういうことを考えられるのかなと思いますけれどね。いまの成熟した日本の社会だからこそ、出てきた感覚なのかもしれません。途上国でそんな話をしたら馬鹿野郎って言われますから。

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