トヨタがこだわり続ける「燃料電池車」の未来 「100年後に人類が生き残るための技術」

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FCVにこだわる理由は他にもある。関係者によると、各社が一斉にEV生産に傾けば、コバルトなどの電池材料が不足するとトヨタは想定している。EVの最大需要国である中国でも各地でFCV開発の動きが広がっており、将来的に世界のFCV市場で覇権を握ることができるとの思惑もトヨタにはある。

米調査会社ストラテジック・アナリシスの推定によると、最も高価な部品であるFCスタック1個の生産にトヨタでは約1.1万ドル(122万円)かかる。同社は、トヨタがFCVを年3万台生産すれば、量産効果でスタック1個当たり約8000ドルまでコスト削減できるとみている。

また、特に高額な白金は使用量を「10―20%減らしても同じ性能を発揮できる」(トヨタ子会社キャタラーの市川絵理氏)技術に成功している。ストラテジック・アナリシスによると、スタック1個当たりの白金使用量を約30グラムとの前提で試算すると、次期ミライのスタックでは最大300ドルの材料費を削減できるという。

法人向けで収益確保か

ホンダもFCV開発は続ける方針で、20年を普及拡大期と位置付け販売拡大とコスト削減を図っている。同社のFCVも760万円台と高く、リース販売にとどまる。本田技術研究所上席研究員の守谷隆史氏は「500万円を下回るレベルにしないといけない」と話す。

FCV開発が「雌伏(しふく)」の時期を脱するには、なお越えるべき課題がある。その一つが、建設に1カ所当たり4億円強かかる水素ステーションの普及だ。その数は4月末で日本全国100カ所となったが、当初の目標からは約2年遅れている。国のロードマップでは20年度までに160カ所、FCV4万台の普及が目標。トヨタを中心とする11社で水素インフラ整備の推進会社も3月に設立したが、個人ユーザーの利便性を満たす規模となるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

トヨタは20年までに、東京を中心にFCバス100台以上を走らせる予定。自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは「FCVは個人向けだけでは成長シナリオを描きづらい。バスやトラック、国や地方自治体による公共の車を中心に考えるのが望ましい」と話す。SBI証券の遠藤功治シニアアナリストも同意見だ。経営資源のあるトヨタだからこそ全方位で取り組めるとし、FCVは「(EV販売を促す中国の規制など)政策が変わったときや将来世の中がどうなるかわからない中での保険なのかもしれない」と話している。

(白木真紀、田実直美 編集:北松克朗、田中志保)

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