北朝鮮の「密輸船」を転がす闇のネットワーク 取扱品はミグ戦闘機からロケット弾まで
だが、国連のブラックリストはすぐに縮小を余儀なくされる。中国政府の圧力を前に、2016年3月末までに早くも4隻が制裁対象から外され、同年12月にはエバーブライト88を含む5隻がこれに続いた。
国連安保理の北朝鮮制裁委員会は当時、制裁対象から外した船舶について「OMMによって管理または運航される経済資源ではなく、それゆえに資産凍結の対象とはならない」と述べていた。
エバーブライト88を運行していたのは香港企業
ロイター通信によれば、中国政府は当時、次のような主張を繰り広げていたという。これら船舶にはもはや北朝鮮人の乗組員は乗船しておらず、OMMとの間には密接な関係はない。よって、制裁対象から外すのが適当――。
何とも現実離れした理屈だ。北朝鮮はかなり前から、海外の親密企業に密輸事業を外注するようになっている。北朝鮮以外の国から乗組員を雇って制裁の網をかいくぐることなど、こうした協力企業にとってみれば造作もない。
米ジェームズ・マーティン不拡散センターのアンドレア・バーガー上席研究員は当時、北朝鮮ニュースにこう話していた。「北朝鮮人乗組員の有無によって(その船舶が)OMMの管理下にあるかどうかを判定するといった手法を採用することで、米中は非公式に手を打ったように見える。しかし、このような基準は上辺をなぞるものでしかない」。
北朝鮮人の乗組員が消えたとしても、エバーブライト88は明らかに北朝鮮密輸ビジネスとつながっていた。2016年にブラックリスト入りした当時、エバーブライト88を運航していたのは百利船舶貿易有限公司という香港企業で、この企業のオーナーは張橋(チャン・チャオ)という中国国籍の人物だった。
そして、中国政府が張氏の船を制裁リストから外すよう画策していたまさにそのとき、張氏は「Jie Shun」という別の船を使ってエジプトに北朝鮮製ロケット弾を密輸しようとしていた。だが、この貨物船は2016年夏にエジプト政府によって拿捕され、鉄鉱石を入れたコンテナの下にロケット弾を隠し持っていたことが見つかってしまう。武器輸出をカモフラージュするのに、同じく制裁対象になっている鉄鉱石を使っていたのだから、恥の上塗りもいいところだ。
さらに、事件を受けて行われた専門家パネルの調査によって、「Jie Shun」の積み荷を用意していたのが北朝鮮の密輸ネットワークだったことも明らかになる。そこには、李安山(リ・アンシャン)氏など、すでにOMMとつながりのあることが特定されている密輸業者の名前が含まれていた。