ヤマト、引越で4.8万件「過大請求」の深刻実態 長期に渡り放置、顧客の信頼を裏切る事態に

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山内社長は「(原因については)外部の独立した専門家による調査委員会の調査で究明したい」と述べるにとどまった。ただ「ヤマトホームコンビニエンスは事業構造改革を進めてきたが、利益がまだまだ薄い」(同)。会社が全国の地域責任者11人や一部の支店長に行った聞き取りに対して、「業績を良くしたかった」と答えた社員もいたという。ヤマトホームコンビニエンスの収益性の低さが、今回の過大請求の背景となっていなかったかが、原因究明の焦点となりそうだ。

加えて、問題となるのは、社内に自浄作用が働かなかったことだ。ヤマトホールディングスによると、2011年に内部告発で過大請求の指摘があり、そのときは調査を行い過大請求分を返金して個別に対応したという。ただ、「全国的な問題とは受け止めていなかった」(山内社長)といい、全社的な調査は行われず、チェック体制の改善など再発防止策が講じられることもなかった。今回も報道機関からの指摘を受けて発覚しており、不適切な請求が長年見過ごされてきた可能性が高い。

個人向けで過大請求の可能性は「極めて低い」

「単身引越サービス」を中心とした個人向けについては、「事前の見積金額と実作業に基づく金額の差分をその場で修正し、顧客に請求する基本ルールが徹底されている」(ヤマトホームコンビニエンスの和田誠社長)として、過大請求が生じる可能性は「極めて低い」としている。

ヤマトホールディングスの山内雅喜社長(左から2番目)は再発防止の陣頭指揮を執るという(撮影:大澤 誠)

しかし、法人向け引っ越しで基本ルールを逸脱した行為が広範にまかり通っていたことを踏まえれば、個人向けでも同様の事案がまったくないとも言い切れない。会社側は、「まだ全てを調査しているわけではない。今後は必要なものについてはチェックをしていく」(山内社長)とする。

ヤマトホールディングスでは、傘下のヤマト運輸で2017年に宅配便ドライバーに対する大規模な残業代の未払いが発覚し、構造改革の真っただ中にある。昨年10月には宅配便の一般消費者向けの基本運賃を27年ぶりに値上げ。アマゾンを代表とする大口顧客に対する運賃引き上げも進む。

宅配便1個あたりの単価は2017年3月期に559円だったが、2019年3月期は659円と100円(約18%)も引き上がる見通し。荷主からは急な値上げに対して、不満の声も上がる。

山内社長は「料金の改定など顧客に理解や協力を得ている中で、こうした事態を起こし、申し訳ない」と話し、原因究明や再発防止では陣頭指揮を執る考えだ。ヤマトホールディングスが7月23日に立ち上げた調査委員会は、原因を調査し、再発防止策の妥当性を判断した上で、8月中に結果を公表するとしている。法人向け引っ越しサービスは再発防止策が適切に機能するまでの間、新規契約や受注は中止する。

社会インフラを標榜してきたヤマトホールディングスで起きた今回の問題。顧客の信頼がなければ、構造改革は立ち行かなくなる。社内管理体制のあり方が厳しく問われそうだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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