スペーシアの反撃とN-BOXには及ばない理由 2018年上期はタントを抜いて2位に浮上

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1つは心理面である。かつて筆者の実家でもセカンドカーとして軽自動車を購入したときがある。そのときは父親とともに、スズキ、ダイハツ、三菱自動車の軽自動車をディーラーへ見に行って商談を行った。予算や装備内容などを検討した結果、父親は「三菱は大きな登録乗用車も多く作っているので、そのノウハウが軽自動車にもフィードバックされているから」という理由で、三菱の軽自動車を購入したことがある。

あくまで個人の感想に過ぎないし、性能や品質面などでの確たる差があるワケではない。ただ、これを同じ構図は、いまの軽自動車市場で現実として残っている。

日産の例を挙げよう。日産は2002年に自社ブランドで実質初めての軽自動車としてスズキからOEM(相手先ブランドによる生産)で調達した「モコ」を発売。その後もラインナップを増やしてきたが、日産の軽自動車は好調に推移する。製品そのものはスズキが生産しているが、日産バッジがついていることで「日産の軽自動車なら……」といままで軽自動車に見向きもしなかったり、やむなく日産以外の軽自動車メーカーから買っていたりした顧客を引き込むことに成功したといえる。

もちろん、メーカーの名前で軽自動車を選ぶユーザーの主観的なさまざまな見方については、客観的根拠はほとんどなく、テレビ通販などでおなじみの、「あくまで個人の感想です」という程度と言えよう。

メーカーの売り方の違い

もう1つはメーカーによっての売り方の違いがある。あえて言うならばスズキやダイハツは正規販売店よりも、自動車販売業界で「業販店」と呼ばれる街の修理工場や中古車専売店などによる新車販売協力店での新車販売比率(紹介or委託販売など)が、軽自動車ではとくに高い。一方でホンダや日産、トヨタなどは系列販売会社での販売比率が圧倒的に高い。つまりメインでの売り方の違いというものはある。

長い間同じブランド車を乗り継いでいて、目立ったトラブルもなく、販売店のサービスに満足していれば、むやみに他ブランドに乗り換えることができない気持ちになるのはある意味で自然な流れといえる。

軽自動車をはじめとしてスズキの車に乗り慣れた人にとっては、「N-BOXは確かに良さそうだけどホンダはちょっと(あくまで個人の感想です)なあ、N-BOXみたいなクルマがスズキにあればなあ」とか、「ディーラー(メーカー系列の販売会社)へ行って、見ず知らずのセールスマンといちいち商談するのが面倒」と考えている人も意外に多い。

逆に言えば、スズキやダイハツを乗り継がなくて、メーカー名にこだわりがないユーザーの需要をN-BOXはガッチリとつかんでいるという点が、スペーシアが販売を伸ばしてもN-BOXにはまだ大差をつけられている要因の1つと言えそうだ。

現行スペーシアはそのキャラクターからいっても、多少失礼な言い方とはなるがN-BOXの“二番煎じ+α(マイルドハイブリッドなどでスズキらしさを加えた)”といっても言い過ぎではないだろう。過去には日本車ではどのクラスでも当たり前のように、メーカー間でキャラクターが直接被るライバル車が設定されていたが、新車販売市場の縮小傾向が続くなかでは、そのような展開ができる販売ボリュームを持つクラスは、軽自動車、コンパクトハッチバック、5ナンバーハイトミニバンぐらいとなっている。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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