ドイツ企業が社会貢献をする「合理的」な理由 CSRは事業拠点への「気の長い投資」になる

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もう少し解きほぐすと、こういうことだろう。

文化やスポーツが充実している地域は、概してすさんだ感じもなく、雰囲気もよい。それは、そういう雰囲気を享受し、楽しむ人が多いということでもある。政治的な安定は闊達な意見交換ができる人がたくさんいるほうがよいだろう。外国系の市民が増えると、寛容と相互理解が進み、地域社会の安定につながる。それ以上に、背景の異なる人同士の交流がイノベーションや創造性につながる可能性もある。

地方都市での音楽イベント。これも地元企業・金融機関が支援している(筆者撮影)

失業しても、諸々の福祉制度に加えて、さらに職業訓練などの機会が多い地域ほど、再び職を得る可能性が増える。「教育が職業に直結、ドイツ社会の『雇用哲学』」でも触れたが、負担になる若年層の職業訓練も「社会的責任」という考え方があるのは、「雇用するに値する人材」を育成することで、個人の自立が可能になり、ひいては社会的安定につながるということだ。

つまり企業は、社会に安定性とダイナミズムがある地域を拠点にしたいと考えている。同時に行政もこういった整備を行うことが企業誘致につながると考えている。加えて、ドイツは市場経済の自由競争を重視すると同時に、社会全体の調和も大切にするという倫理的な考え方も強く、「社会的市場経済」を標榜していることとも親和性が高い。

「気の長い投資」をしている?

企業側から出てくる「拠点へのお返し」という言葉だけ見ると、スポンサリングなどの行為は企業にとって、社会的責任を果たすことである。だが、「倫理的イメージが伴う好都合な広告」あたりが直接的な本音だろう。

それにしても全体の構造を見ると、企業が収益の一部を拠点としての地域社会に分配するということが起こっている。それによって、治安の良さはもちろん、地域社会の質を高める。これは拠点地の信頼性そのものを保ち、向上させる行為といえるだろう。すでに多くのものがそろった地域では、スポンサリングによる大きな社会的インパクトや効果は見えにくいが、事業基盤の維持・保全をする効果がある。つまり、事業を持続的に行うための「気の長い投資」といえる。

日本に目を転じると、グローバル化の波を受け、自由主義経済の傾向が強まり、そして貧困などの諸問題が噴出してきた。社会の安定性・ダイナミズムと自由競争をうまく関連付ける方向性を議論していくことが重要だと思う。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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