メイ政権、ブレグジットで閣内合意すら難航 穏健派に妥協し、強硬派閣僚が相次いで辞任

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ちなみに英国がEU離脱に至れば必然的に英国内である北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドの間に国境が復活する。北アイルランドにおけるアイルランドとの統一を求める過激派は国境が消えていたからこそ活動を沈静化していたという経緯も指摘される。アイルランド国境問題は貿易取引を超えて紛争問題の行方にも影響する論点となる。

メイ首相からすれば、今回の基本方針が強硬派から反発を受ける覚悟は当然あったはずだ。分かった上でこの内容で打ち上げたということは「党を割ってまで離脱する者などいない」という読みがあるからだろう。主要閣僚が辞任したことで強硬派の勢いは増していると思われるが、ここでメイ首相を引きずりおろしたところで後任首相の党内調整が楽になるわけでもない。

ジョンソン外相辞任によってジョンソン次期首相を担ごうとする動きは出やすいかもしれないが、そもそも強硬派と穏健派が拮抗していることが政局混乱の種なのである。誰がやっても党内の意見集約は困難であり、対EU交渉も厳しいものになることは目に見えている。ましてや今秋に交渉期限が迫った今、あえて倒閣という一手を選ぶ議員は多数派ではないと考える。

イギリスが「お目こぼし」を受ける余地も

金融市場に目をやれば、英ポンドはBOE(イングランド銀行)に対する利上げ観測がドライバーになりやすいが、英国株はブレグジットの話題がやはり懸念されているような印象である。基本方針発表後のFTSE100は大崩れせずに堅調だったが、過去5年の動きを見た場合、英国株が他の主要国株に劣後しているのは間違いない。実体経済の先行きを映す株価は「合意なしの離脱(クリフエッジ)」まで見越しているのだろうか。

もちろん、クリフエッジとなれば、EU側も対英貿易で関税が復活するため、悪影響を被る。強硬派の望むハードブレグジットや結果としてのクリフエッジはEUも避けたい結末だろう。であれば、EUがメイ政権をムダに追い込むこともないだろう。また、現状のEUはトランプ政権との貿易戦争が喫緊の課題となっているため、英国にはある程度「お目こぼし」をする意向も生まれやすいかもしれない。少なくとも米英に挟撃されるような状況は避けたいだろう。

いずれにせよ実質的な交渉期限とされた今秋まで残された時間は非常に少なくなってきた。ブレグジットが2019年下半期の金融市場における一大テーマとなる可能性は十分考えられる。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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