資本主義は、「ショウ=見世物」にすぎない

天才哲学者ガブリエルが考える世界の構造

セドラチェク:なるほど。しかし、こうとも言えます。失敗した代替案であった共産主義あるいは真の社会主義は、資本主義よりも生産にフォーカスしていた、ということです。共産主義社会では、高い精神性や宗教、批評、芸術を含むすべてが、より高い生産性の対象です。資本主義よりも、あらゆるものをモノとして測定しようとしたのが共産主義だとさえ言えます。

トーマス・セドラチェク/1977年生まれ。CSOB銀行チーフストラテジスト。大学在学中の24歳の時チェコ初代大統領の経済アドバイザーに。著書『善と悪の経済学』は、15カ国語に翻訳された。新刊の『続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析』も話題(写真提供:NHK)

たとえば50年前の共産主義社会の工場では、人の仕事はコンピュータもなく原始的なツールを使って行われていましたから、計画を作ることが重要でした。生産性で資本主義社会を追い越すためにです。つねに経済的な勝利が重要でした。科学的勝利も重要だったかもしれませんが、それ以外の要素はありませんでした。

ですから、共産主義や社会主義は、モノには還元できないほかの要素を受け入れる資本主義よりも、経済を重視し、経済をあたかも神であるかのように奉っており、宗教的で一神教めいていたと思います。これにより物事が変わるのです。

シュンペーターの議論で最もすばらしかったと思うのは、資本主義に代替案がないのは、ある意味、資本主義は自身の代替案だと言えるからだという指摘です。私はチェコスロバキアの出身です。1993年にチェコとスロバキアに分離しましたが、チェコの資本主義は1990年代には、今とはまったく違いました。ドイツの資本主義でさえ1990年代初頭の姿は今とは違いました。生態系へのダメージについてあまりに無知でした。私たちは知らなかったのです。気づいてもいませんでした。

しかし、繰り返しになりますが、共産主義システムはより無条件でフェティシズム的だったと思います。たとえば、西側諸国は重工業による生態系の破壊に気づいていましたが、その時、共産主義諸国はそんなことには無関心でした。

資本主義は代替案のないショウ(見世物)だ

ガブリエル:私は、資本主義を少し違う視点でとらえています。資本主義は「モノの生産を伴う組織的な活動全体」と定義できると言いましたが、「モノを生産する」(Produce)という言葉の語源は、「前面に導く」という意味です。「モノを生産する」とは「前に導く」=「見せる」ということです。

マルクス・ガブリエル/1980年生まれ。ボン大学教授。「新実在論」を提唱し注目を集める気鋭の哲学者。著書にベストセラーとなっている『なぜ世界は存在しないのか』や『神話・狂気・哄笑』などがある(写真提供:NHK)

つまり生産は、ある意味でショウなのです。他人にモノを見せると、そのショウに対して反応がある。つまり生産条件下では2つの縫い目、つまり生産と消費が1つになります。

伝統的に私たちは差し出すモノを「商品」と呼び、2つ目の、それに対する反応を「消費」あるいは「消費の拒否」と呼んでいます。これを一般化して、確かに経済を手放しで崇拝する社会主義社会の言うところの使用価値から切り離して考えると、フェイスブックの「いいね!」やこの会話もモノの生産ということになります。このモノの生産条件にはカメラやディレクターや私たちが会話をしたいという気持ちさえも含まれます。

そして資本主義には代替案がありません。今では資本主義は、ショウとしてあらゆる測定方法がある経済システムだからです。偶然かもしれませんが、今日の世界で、ドナルド・トランプはある意味で資本主義の主な顔と言えるのかもしれません。そして同時に、彼はリアリティ番組を作り出してもいるわけです。

セドラチェク:ええ。

ガブリエル:資本主義は代替案のないショウだと思います。

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