社保庁解体でとばっちり、放り出された社会保険・厚生年金病院

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社保庁解体でとばっちり、放り出された社会保険・厚生年金病院

「私は二本松病院に命を託しています。われわれ、人工透析の患者は1日置きに1回5時間の治療が欠かせません。病院の100人の透析患者の平均年齢は65歳。合併症で歩けない患者も多いのです。病院がなくなったらどうすればよいのですか」。福島県二本松市の住民団体の集会で、佐久間真一さん(55)は声を振り絞るように訴えかけた。

福島県二本松市が大きく揺れている。市内で唯一出産できる病院であり、救急医療も取り扱うなど地域の中核施設である社会保険二本松病院が、10月1日から独立行政法人「年金・健康保険福祉施設整理機構」(RFO)の所有となったためだ。二本松病院を含む全国53の社会保険病院と10の厚生年金病院が、この日からRFO所有となった。

RFOはその名のとおり、施設の譲渡または廃止を目的とする組織。しかも2010年9月末に解散することが定められており、法律上は実質2年で病院を譲渡、もしくは廃止しなければならないことになる。

07年度単年で見ると、社会保険病院は黒字40病院、赤字13病院。厚生年金病院は黒字6病院、赤字4病院。人件費・運営費の補助はなく、また保険料を財源とした病院設備もない中で健闘してはいるものの、バラ売りされたら赤字病院は引き受け手が見つからず廃止となる可能性もある。廃止こそ免れても、「病院から透析は赤字だと言われている。真っ先に切られるのでは」(佐久間さん)、「産科・小児科など不採算部門はなくなるのでは」(二本松市の30代女性)といった不安が住民から上がるのも無理はない。

「官から民へ」の大合唱 地方も都市部も大混乱

そもそも地域医療の崩壊が社会問題化している今、なぜ公的病院の譲渡、もしくは廃止が行われようとしているのか。話は01年にさかのぼる。当時の小泉内閣の坂口力厚生労働大臣が、社会保険病院の3割程度の統廃合を検討すると述べたのが始まりだ。関係者は「あの当時は『官から民へ』の一本やりで、民業圧迫する社会保険病院など公的病院の役割は基本的に終わったという認識が蔓延していた」と振り返る。

厚労省は整理合理化計画を策定する方針を示し、05年にはRFO法が成立。その後、社会保険庁解体の受け皿が必要となったことも後押しして、今年4月に与党が両病院のRFOへの出資(所有移転)に合意し、厚労省が10月に出資した。だが、この7年の間に医療を取り巻く状況は劇的に変わったにもかかわらず、官の反応は鈍い。

翻弄されているのは地方都市だけではない。「この20年間、(東京都)北区の医療は国の政策に振り回され続けてきた」。「北社会保険病院を拡充させる会」の石山義益代表委員は憤る。東京都北区では国立王子病院が最大の総合病院として地域医療に貢献してきた。だが1986年に厚生省(当時)は国立病院の統廃合計画を打ち出し、王子病院は廃止対象となった。

これに対して地元住民団体が結成され、15年を超える存続運動の結果、国は03年4月に「東京北社会保険病院」の設立を約束した。が、事態は二転三転する。「官から民へ」に反すると国会で批判を受け、一度は設立中止に追い込まれる。住民団体が再度交渉し運営主体を変えることで何とか設立にこぎ着けた。「ようやく安心できると思ったら、また譲渡、廃止というのでは地元住民はたまらない」(石山氏)。

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