中国で苦戦する、ヤム・ブランズ 中国のファストフード、「食の安全」武器に攻勢

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10月28日、中国のファストフード業界では、同国や台湾のチェーンが健康的なメニューを武器に米国勢のシェア拡大を阻止している。写真は台湾・頂新国際集団傘下のディコス。武漢で2月撮影(2013年 ロイター)

[上海 28日 ロイター] -中国のファストフード業界で、米マクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)などを運営するヤム・ブランズが劣勢に立たされている。中国や台湾のチェーンはライスバーガーやレンコンなど健康的なメニューを武器に、1740億ドル(約17兆円)規模にもなる市場で米国勢のシェア拡大を阻止している。

マクドナルドは先週、中国国内の競合他社に顧客が流れていることから、同国での事業拡大ペースを緩めることを検討していると発表した。昨年12月にKFCの同国店舗で鶏肉製品の一部に過剰な抗生物質が使用されているとの疑惑が浮上し、売り上げにも影響が出たヤムは今月、同国の景気減速が回復の足かせになっていると述べた。

一方で、郷村基(カントリー・スタイル・クッキング)や真功夫(カンフーケータリング)のほか、台湾の頂新国際集団が所有するディコスなどチェーン店が米国勢の牙城を崩しにかかっている。

ディコスで食事をしていた女子学生のタン・メイさん(25)は、「西洋のファストフードには少し飽きてしまった。油は多いし、足が6本あるニワトリが使われているという話を聞いたこともある」と語り、「皆が本当に心配しているのは健康問題だ」と指摘した。

それでも、マクドナルドとヤムは中国で最大規模のファストフードチェーンだ。しかし、市場調査会社ユーロモニターによると、マクドナルドは2007年以降、多額の投資にもかかわらず、金額ベースでのシェアが2.3%付近と伸び悩んでいる。昨年のシェアが6.5%だったヤム・ブランズは、食材に対する不安や鳥インフルエンザが影響し、既存店売上高に影響が出た。

ヤムは中国でKFCとピザハットを計5600店展開しているのに対し、マクドナルドは1800店。一方、ディコスを運営する頂新国際集団は2020年までに現在の3倍に当たる約3700店に増やす計画を打ち出し、「伝統的な西洋のファストフードの形を打破する」と意気込んでいる。ディコスは中国らしさを前面に出し、ウェブサイトに陶器の茶碗に注がれた伝統的なハーブティーや、以前から提供しているナゲットやクリスピー・ウイングの横にライスバーガーと豆乳が添えられた写真を掲載している。

「結局のところ、太古の昔から中国人の主食はコメだ」と語るのは頂新国際集団の広報担当者チュワン・ウェイタン氏。ディコスでは今後、より健康的で中華風の料理を提供していくとし、「従来から提供してきたチキンと中国人の健康志向を融合した結果、生存競争の激しい中国のファストフード業界でニッチな分野を創造できた」と述べた。

<品質への疑問>

アナリストの分析では、中国人の多くは減速しつつある経済の中で、安価な物を求めるか、単純に自宅で食事を取る傾向にある。これによって、ファストフード市場の成長率は過去5年間で半減し、昨年は8%に低下した。

市場調査会社ミンテルによると、KFCでのランチは25元(約400円)だが、ディコスで同様のメニューを注文すれば17元以下だ。

中国では、レストランの排水溝に流された廃油を集めて製造された調理油や発がん性物質を含む牛乳など、食の安全をめぐるスキャンダルが相次ぎ、海外企業の強みでもあった食の品質に注目が集まった。しかし今や、海外企業の品質には懐疑の目が向けられ始めている。

昨年になって、KFCとマクドナルドが購入した一部の鶏肉に過剰な抗生物質が投与されていた疑惑が浮上するなど、数々の問題が出たことで、顧客の見方にも変化が生じたようだ。ミンテルが最近実施した調査では、西洋のファストフードが中国のものより健康的で品質が高いと考えている中国人は、全体の4分の1程度にとどまっていることが分かった。

上海のマクドナルド広報ジェシカ・リー氏は、「われわれは食の品質と安全に関する情報を発信している。今後もこうしたキャンペーンを増やしていきたい」とコメント。ヤムからはコメントを得られていないが、同社はすでに中国でのサプライチェーンを縮小しており、11月にはKFCの従業員や納入業者、養鶏農家を対象に、新たな品質保証キャンペーンを実施する方針だ。同社のデービッド・ノバク最高経営責任者(CEO)は9日、「われわれにはまだやることが残されているが、顧客の信頼を取り戻すために正しい道を歩んでいることは間違いない」と語った。

<国内ブランドに追い風>

国内ブランドへの信用が高まる中で、その多様な食材によって健康的だと考えられる地元の料理がますます人気を集めるようになり、伝統的な中国の食べ物や食文化に対する関心も高まっている。

昨年放送された中国の食の歴史などを扱うドキュメンタリー「A Bite ofChina(原題)」は、1億人以上が視聴する人気番組になった。

ブルース・リーの看板が目印の真功夫は、中国の壮大な山々と幽玄な雲や竹を背景に、料理に使用する自然素材を並べて食の信用を強調している。郷村基など他の店も、中国風のファストフード商品を提供している。

また国内ブランドは、中国の今後の成長を促すとみられる西部でも高い業績を上げている。コンサルティング会社チャイナ・マーケット・リサーチ。グループのジェームズ・ロイ氏は、「郷村基は中国西部で強さを発揮し、深センなどに店舗を展開する真功夫はコメをベースにした商品で人気を集めている。油が少なく健康的な食品を求める顧客のトレンドに合致した戦略だ」と分析する。

あるブロガーのコメントにはこうある。「もう中国のファストフード以外は選ばない。湖南省風のカニ団子もあれば、新疆ウイグル自治区の香り豊かなパンやラムのケバブもある。ピザハットやマクドナルドが提供できるものがあるだろうか」。

(原文執筆:Adam Jourdan、翻訳:梅川崇、編集:橋本俊樹)

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