阿蘇ブランド「FIL」に見る林業再生のヒント 日本の隠された財産「杉」が迎える成熟期

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穴井さんは福岡の大学を卒業後、コンサルティング会社に入社しました。29歳で南小国町に戻った後、林業を復活させるために地元の特色を見直すところからはじめます。なぜ小国杉は名が知られるようになったのか、南小国町が自慢できるものは何なのか。未来会議と銘打ったミーティングには40名近い有志たちが集まりました。

従来、小国杉は建築材として専門的に語られることが多く、一般の方々にも魅力が伝わるようなキャッチーさがあったとはいえません。小国杉そのものに光を当てる中で改めて気付いたのが、色彩の美しさです。

「杉は輪切りにしたとき、中央の組織は赤く、外側の組織は白くなっています。杉は林齢を重ねるごとに赤の領域が増えていきますが、黒味が混ざっていく杉も多い中で、小国杉は赤色を保ったまま成長します。赤の領域が桜色に見える木も珍しくありません。もう1つ、木の価値は油分量が1つの基準になりますが、材料として使われた場合、歳を重ねるごとに水分がなくなっていきます。しかし、小国杉は油分が表面に滲み出してくるため、どんどん艶が増すと言われています」(穴井さん)

こういった素材の良さが詰まった製品を製作すべく、まずは同じく阿蘇に位置する『黒川温泉の旅館』とタッグを組み、配膳で使用する酒器やトレーなどを作りました。

地方創生を匂わせない緻密な戦略

プロジェクトは幸先の良いスタートを切りましたが、持続的な再生を遂げるためには、更なる取り組みが必要だと穴井さんたちは考えました。森林や田畑へのフィールドワークを行い、阿蘇全体の文化や歴史をひもとき、国内外問わず杉を活用した他社商品を調べていく中で、美しい景観をベースにした豊かさこそが阿蘇の魅力だという答えを導き出します。

「阿蘇にはカルデラや1000年続く草原があり、世界農業遺産にも指定されている景観を守るために、毎年野焼きを行っています。 美しい景観の中で阿蘇の人たちは営みを続け、旅行者や訪問者の方たちを受け入れてきました。

コンサルタント時代の経験を活かし、自社・競合・顧客という3つの観点から戦略を組み立てる「3C分析」も行っている(写真:ファクトリエ)

阿蘇の歩みを振り返る中で気付かされたのが、 “自分と違うもの”とつながることで人は充実した暮らしを送れるということ。

自然も“自分と違うもの”の1つであり、つながりが深ければ深いほど、私たちはより豊かになります。

自然と人、そして人と人の深く強いつながりを重んじる文化や価値観を通して、満ち溢れた人生とは何か?を社会に問い続けるために、インテリア・ライフスタイルブランド『FIL』を立ち上げました。FILは、“Fulfilling life=満ち溢れる人生”の頭文字を取っています」(穴井さん)

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