阿蘇ブランド「FIL」に見る林業再生のヒント 日本の隠された財産「杉」が迎える成熟期
立ち上げを決めた後、穴井さんたちはブランディング戦略を綿密に組み立てていきます。
キービジュアルには阿蘇の原風景……ではなく、外国人のモデルを採用しました。
少し派手にも見えるアートディレクションを行ったのは、海外の有名雑誌の編集長に着目してもらいたいという意図があります。
根本の思想が明確であるからこそ、ブランディングやPRに関しては大胆に挑戦しても想いは届くと考え、ほかの日本の地方ブランドが行っていない試みを実施しました。
その狙いは当たり、海外メディアからの問い合わせが相次ぎます。その後、海外メディアでFILを知った日本の編集者から問い合わせがあり、国内の雑誌やメディアに商品が掲載されることに。そしてそれを見たバイヤーや企業から問い合わせが入り、売り上げへと結び付いていきました。
杉の新しい活用法
雑誌を見て連絡をした1人が、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』の責任者です。熊本地震から約2年後、阿蘇を巡るコースの再開に合わせて、朝食に使用する食器を阿蘇の材料である小国杉で作りたいというオファーを送り、4カ月の開発期間を経て実現にいたりました。
「自分たちがハブとなって阿蘇の盛り上げ役になりたい」と穴井さんが言うように、地元企業とのコラボも徐々に増えていきます。先述した『黒川温泉』、そして『星野リゾート 界 阿蘇』などの宿泊施設とのタイアップもその1つです。宿泊者の方たち、特に一度施設を満喫しているリピーターの方たちは、次なる体験としてその土地のレクリエーションを求めています。
そこでFILが開催しているのが、杉の葉から採取できる精油を使用した“タボレッタポプリ(火を灯さないアロマキャンドル)”を製作できる体験教室です。杉の香りには防虫・消臭効果があり、ブレンドオイルは1年程度香りが保たれます。今後は別の旅館でも実施予定であり、杉の新しい活用法として認知度は高まっていくでしょう。
「杉は花粉症の原因にもなっているので、なぜこんなに植えたのかという意見もあるでしょう。しかし、杉は学名をクリプトメリア・ジャポニカと言い、隠された日本の財産を意味します。昔の人たちは、未来に杉を活用してほしいという願いを込めて杉を植えたはず。その未来が、今このときだと思っています」(穴井さん)
木の収穫期は、 二酸化炭素を吸収しにくくなる植樹60年以降であり、日本の育成林は今まさに木材としての成熟期を迎えています。隠された日本の財産を、今後どのように活用すべきか。FILの活動には、そのヒントがたくさん詰まっています。
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