半導体、「しばらく不況は来ない」説は本当か 構造変化で需要爆発だがリスク指摘する声も

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需給バランス悪化のリスクは中国にもある。IHSグローバルの南川明主席アナリストは「中国の量産本格化で供給過剰になる可能性は高い」と指摘する。中国政府は2014年に、中国産半導体の総販売額を2020年に約14兆円まで拡大させることを目標とした「国家IC産業発展推進ガイドライン」を公表。2015年には「中国製造2025」という国家戦略を打ち出し、25年までに国内で使う半導体の70%以上を国産化する目標を掲げている。

現在は工場を建設し、装置の導入を進めている。本格的な量産が始まるのは2020年ごろになる見込みだ。最先端の半導体は製造できないとしても、一部では供給過剰が発生することになる。日本の装置メーカーや材料メーカーにとってまったく新しい勝機をもたらす一方で、スーパーサイクルに水を差す、大きなリスクとなる可能性もある。

米中貿易摩擦も懸念材料

そしてここにきて、米中貿易摩擦の問題も浮上してきた。米トランプ政権は今年6月、中国の知的財産侵害に対する制裁関税の最終リストを発表。7月から500億ドル(約5.5兆円)に相当する中国からの輸入品1000品以上に25%の関税を課すと報道されている。

リストには半導体も含まれており、背景には中国のハイテク産業育成を牽制したい米国側の思惑があると見られる。ほかにも、今年4月に米国政府はクアルコムなど米国企業に対し、中国通信機器大手・中興通訊(ZTE)向けの半導体供給を止めるよう命令。ZTEの製品生産が一時的にストップする事態となった。

中国はスマホを中心とした半導体の一大消費地であり、半導体をめぐる米中貿易摩擦が過熱すれば、需要の盛り上がりに水を差すことになる。中国には米インテル、サムスン、TSMCといった大手企業の工場が多く置かれている。高関税は中国で生産した製品を輸出する際のコスト高になる可能性もあり、日本の装置や材料にも影響は出てくる。

業界構造の変化により、半導体の需要が長期的に右肩上がりで伸びていくことは関係者の見方が一致するところだ。とはいえ、この先リスクがないとも言い切れない。メーカー各社の強気な見通しはどこまで持続するのか。半導体業界がかつて経験したことのない異次元の領域に突入していることは間違いない。

『週刊東洋経済』6月30日号(6月25日発売)の特集は、「ビッグデータ、EVシフトで需要爆発 怒涛の半導体&電池」です。
藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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