「寝台列車廃止」はJRの最も賢明な選択だった

夜行バスは多いが列車に勝ち目はない

「東京23区と大阪市との間を移動する人たちだけではなく、広く関東、近畿の人たちを対象にすれば輸送需要は増えるはずだ」との反論もあるだろう。確かに、関東圏―近畿圏間という観点で秋の平日1日に幹線バスで移動した人の数は7274人であったから、夜行の旅客列車にも活路はあるように思える。

ところが、幹線バスはたとえば宇都宮駅―大阪駅間であるとか新宿駅―奈良駅間といった具合に個々の便が関東、近畿の広域をきめ細かく結んでおり、鉄道のように東京駅や大阪駅といったターミナルまで出向かなくても済む。宇都宮発、大宮、東京、横浜、京都、奈良、大阪経由神戸行きという列車を運転すればよいのかもしれないが、混み合った通勤路線に列車を走らせることは難しく、なおかつ夜行バスと比べれば所要時間は長くなり、運賃も宇都宮―東京間や大阪―神戸間を別に徴収するとなると高額となって勝負にならない。

先の表の通り、そもそも東京23区―大阪市間だけで秋の平日1日に黙っていても1万3928人がJR旅客会社を利用してくれるのである。手間と費用とをかけて、その半分ほどの人たちに乗ってもらおうとする行為自体を無駄な努力と気づいたからこそ、今日、東京―大阪間に寝台列車が存在しないのは賢明な選択だ。

寝台列車廃止は賢明な選択だった

夜行の寝台列車の運賃をバス並みに安くすれば利用状況だけは良好となるかもしれない。だが、それではJR旅客会社が営業利益を計上することは不可能で、国鉄の悪夢が甦る。

国鉄の調査によると、寝台列車のうち特急として運転されていた列車の輸送人員のピークは1973年度で約1998万人、1日当たり5万4700人余りであったという。同年度の国鉄の鉄道の輸送人員は約68億7089万人(1日当たり約1882万人)とそれまでの過去最高を記録した(国鉄の最高値は1974年度の71億1269万人)。

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しかし、当時の国鉄の経営陣にとってこれらの数値は悪夢でしかなかったであろう。というのも狂乱物価の世の中にあって国鉄の運賃は極めて安く抑えられ、旅客1人当たりの旅客運輸収入と運送費とを比較すると何と後者のほうが高額であったのだ。つまり、輸送人員が増えるほど損失は膨らむこととなり、同年度の当期純損失は約4544億円、累積欠損金は約1兆5955億円にも達していた。いっぽうで借入金に対する利子等は約2278億円(1日当たり約6億円)で、国鉄は利子を支払うために新たな借り入れまで行っていたのだ。

31年前に発足したJR各社は国鉄の過ちを繰り返さないような経営方針を取ると同時に、本州の3旅客会社とJR貨物とは国鉄の残した長期債務の一部返済も担った。バスと対抗するためだからと言って大赤字覚悟で寝台列車を走らせることなど許されるはずもなく、またJR旅客会社が営業利益を得られる金額に設定すれば大多数の人たちは利用しない。そうした分野からは撤退することが賢明であり、これがJR発足31年間で得られた教訓の一つである。

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