日本人が知らずにしている人種差別の「正体」 「シャイ」という言葉に隠れた恐れ

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しかし世界はつねに複雑であり、人類は今も昔もケースバイケースで物事に対処した歴史がある。それをなかったことにようとしたり、多様性を最小限化しようとすることは結果的に人種差別につながるのだ。

日本人であろうとなかろうと、この事実を受け入れられたら、日本での平安な暮らしに成功するはずだ。受け入れられない人は、未来への恐れから前進への障害を作ったり、単純な思考で誰かにラベル付けを繰り返してしまうのだろう。かのアインシュタインも、「問題が起きた時と違う発想をしない限り、問題は解決できない」と言っているのに。

日本にはまだやるべきことがある

日本に住む外国人の多くは、いくつかの理由から日本の将来に対して期待を抱いている。日本国憲法の精神、そして、オリンピック憲章にのっとって、日本では人権意識が高まっていると同時に、人種や民族性などに基づいた差別是正に力を入れているからだ。が、さらにできることはある。

たとえば、日本は2016年に「ヘイトスピーチ対策法」を施行したが、この法律ではヘイトスピーチを禁止してないし、罰することもしない。禁止も罰することもない法律に何の意味があるのだろうか。

人種問題についても同じだ。2016年、法務省が行った人種差別に関する調査によると、調査対象となった外国人で過去5年以内に家を探したことがある人の39.9%が「外国人であることを理由に入居を断られた」と回答しているほか、過去5年以内に仕事を探したり、働いたことがある人の25.0%が、「外国人であることを理由に就職を断られた」という。また、29.8%が過去5年間に外国人であることを理由に侮辱されるなどの差別的なことを言われている。人種あるいは外国人に対する差別を是正する法律が、効力のある形で施行されないかぎり、状況が改善するとは当然思えない。

ほかの多くの社会同様、日本の将来は子どもたちにかかっている。人権意識を育むには、テレビ番組やパソコン、あるいはスマホアプリなどの教育的なリソースが必要だろう。さらに、外国人に対する恐怖心をなくすようにする政府主導の啓蒙活動や、恐怖心や差別意識をあらわにする人に対する批判を強めるキャンペーンが必要だ。

究極的には、政府や官庁、そして日本人と日本に住む外国人が一体となって外国人恐怖症や人種差別に取り組まないかぎり、改善の余地は見込めない。そして、差別をなくすには、「恐怖心」という差別の根源をなくすような取り組みが必要不可欠だ。

真の国際化に近道はない。多様性の実現に”新幹線”も”特急”もない。ひと駅ずつ到着し、ケースバイケースに対応しながらたどり着くべき目的地だからだ。目的達成と同じくらい、その過程が大切なのだ。横着して飛ばしてしまおうものなら、何か大切なものを得られないことになる。はびこる無知に対処するための、大切な何かを。無知こそが恐れを生み、恐れは必ず差別につながる。差別によって社会の発展も阻まれるだろう。外国人に対する恐れは、すなわち未来に対する恐れなのである。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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