朝鮮半島は「擬似的平和状態」に突入していく 共同宣言は具体性なく「非核化」はまだ入り口

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第3項目は、最大の課題である北朝鮮の核問題に触れているが、文面は「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する」と簡単なものになっている。これまで北朝鮮は六者協議などで核問題についていくつかの合意をしてきた。それらは結果的に守られなかったが、文面としては今回の声明よりは踏み込んでいた。

米国があれほど繰り返し強調していたキーワードのCVID(「核兵器の完全かつ検証可能で不可逆的な解体」を意味する)が盛り込まれていない。もちろん、日本にとっても深刻な問題である弾道ミサイルにも触れられていない。一方、共同声明の冒頭部分には「トランプ大統領は北朝鮮に体制の保証を提供する約束をし」と書かれている。「体制の保証」は北朝鮮が最も強く求めていた問題である。この点だけを見ると、金正恩氏の圧勝のような内容になっている。

なぜこんなことになったのだろうか。共同声明の文言をめぐっては米国のソン・キム元朝鮮政策特別代表(フィリピン大使)と北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が、板門店で合計6回も交渉を重ね、さらにシンガポールでも首脳会談前夜まで協議を続けていた。おそらく「CVID」と「体制の保証」についての表現で両者は最後まで合意できなかったのであろう。そのため美しいが具体性のない表現にとどまったのだ。トランプ大統領が記者会見で「時間が足りなかった」と述べたことがそれを裏付けている。

北朝鮮側は交渉担当者すら決まっていない

この調子だと、首脳会談はもちろん水面下の交渉でも、北朝鮮の核兵器の廃棄の具体的な時期、手順、IAEA(国際原子力機関)の査察などより専門的で具体的な話は手付かずだったろう。美しい言葉を飾った共同声明は出来上がったものの、その後の段取りはこれから詰めていくことになる。

共同声明では今後について「米国のマイク・ポンペオ国務長官と北朝鮮の高官による交渉を行うことを約束した」と書かれている。これでわかるように北朝鮮側は交渉担当者の名前さえ決まっていない。つまり、今回の首脳会談と共同声明は、北朝鮮問題の解決に向けた入り口でしかないのである。

にもかかわらずトランプ大統領は米国のテレビのゴールデンアワーに合わせて首脳会談を開始し、派手なパフォーマンスを演じきり「大成功」を演出した。重要な外交でさえ「ショー」にして見せるのだ。後に残った細かな問題は国務長官ら担当者に丸投げする。トランプ氏らしい外交と言えるだろう。

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