新幹線殺傷事件は、もはや「想定外」ではない 事件の4日前に訓練を行っていたのだが…
あまりメディアで報道されることはなかったが、2016年5月16日、静岡県内を走行中の東海道新幹線「のぞみ38号」の車内で、巡回中の女性車掌が包丁を所持している男を発見し、取り押さえる際に軽傷を負う事件が発生した。
この事故を契機に、車内の不審者に対応する訓練をJR東海では開始している。「乗務員は携帯しているかばんや座席シートから外した着座部分を使って、相手と距離をとりながら防御する」(同社広報部)という。
今回の事件でも、乗務員が座席から外したシートを近くの乗客に渡したとの報道があり、訓練は確実に役立ったといえそうだ。ただ、そもそも乗務員は警察官や警備員のように格闘技や護身術に長けているわけではないので、やはりその効果は限定的なものだ。
しかも、JR東海では、新型携帯端末の導入で車掌による車内業務が効率化されたことを理由に、今年3月から乗車する車掌の人員を3人から2人に削減していた。2人のパーサー(車内販売員)の役割を広げることで「異常時対応力はむしろ向上する」(同社広報部)というのだが、列車故障時の避難誘導のような業務ならともかく、乗客から不審者と対峙するようなことを期待されても、それはパーサーには無理だろう。
JR東海は、「車掌乗り組み数の見直しと同時に、車内巡回の重点区間には柔軟に乗務員を増やす」(広報部)としている。しばらくは、乗務員を多めに乗車させる必要があるかもしれない。
大がかりな訓練も行っているが…
実は、今回の殺傷事件が起きるわずか4日前にJR東海は大がかりな訓練を行っていた。営業運転が終わった後の6月5日深夜、本線を使った異常時対応訓練を行うためだ。車両故障により上り線を走っていた列車がトンネル内で停止、早期に運転再開ができないため、下り線で駆け付けた救援列車に乗客を誘導するという内容だ。
この訓練には、関連会社やJR他社も含め317人が参加した。車内で異音、異臭が発生したとの想定で、列車停止後は台車点検を行った。これは、昨年12月に起きた新幹線「のぞみ34号」の台車亀裂トラブルを想定した訓練とみられる。
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