イタリア政局混乱でECBが直面した大誤算 まさかの再選挙、ユーロ相場はもっと下がる

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だが、9月の政策理事会は13日だ。仮に一部報道にあるように9日に再選挙を行うとすると、そのわずか4日後の政策理事会でAPP終了を宣言しなければならないという話になる。いや、9月9日でなく10月や11月であっても厄介な事態には変わりがない。現在、ECBが毎月購入している国債の19%弱がイタリア国債であり、これは同国のECBへの出資金比率対比で1%程度オーバーして購入されている。

政局不透明感に乗じてイタリア国債が売り叩かれる中で、ECBが難なく身を引けるだろうか。そもそもそうしたリスクプレミアムを押し下げるためのAPPだったことを思えば難しいはずである。今秋をメドにイタリア再選挙が見込まれている時点で9月政策理事会での終了宣言は難しくなったと考えるのが自然だ。

ユーロは昨年6月以前の水準に戻る

とすれば、7月26日の政策理事会で早々にAPPの12月ないし2019年3月までの延長を宣言する可能性もないとはいえない。そうなってくると最短で2019年6月と目されていた利上げも同年9月まで後ずれし、2019年中の利上げの実現可能性も危うくなるのではないか。昨年来から盛り上がってきたユーロ買いは「2019年の利上げ着手、2020年のプラス金利復帰」までを視野に入れていた感が強い。APP終了の後ずれはさらなるユーロ売りにつながる可能性がある。ユーロ相場の具体的な水準感については1.15を安定的に割るかどうかが注目である。

ユーロドル相場は2017年6月末のECB年次総会でドラギECB総裁が「デフレ圧力はリフレ圧力に置き換わった」と言い放って以降、それまで2年以上続いていた「1.05~1.15」のレンジをブレイクし「1.15~1.25」のレンジにシフトアップした。端的に言えば、ECBがAPPを終了させ、利上げに向かうであろうという想定でユーロが買われてきたのである。

上述したように、仮に「APPの年内終了すらおぼつかない」という想定に移れば、ユーロドル相場は再び「1.05~1.15」に引き戻される可能性があろう。ユーロの1.10ドル割れを視野に入れるのであればユーロは対円でも安定的に120円を割り込む世界に戻ることになる。円滑に進められてきたECBの正常化プロセスだが、最後の最後でイタリアという難敵に捕まってしまった格好である。

なお、ここにきてスペインでも与党・国民党の汚職問題に絡んでマリアーノ・ラホイ首相への退陣要求が強まっている。この騒動の帰結が再選挙や政権交代に至るのかどうかはまだ状況がはっきりしていないが、最悪の場合、今年の秋にイタリア、スペインのダブル総選挙というシナリオまで浮上している。そもそも今秋は英国のEU離脱(ブレグジット)交渉が佳境を迎えるタイミングでもある。過去最長の景気拡大を背景に順風満帆であったECBの正常化プロセスは一気に雲行きが怪しくなってきたと見ざるを得ない。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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