若手経営者が挑む福井発のIT革命、携帯ブラウザ・jig.jpの挑戦

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若手経営者が挑む福井発のIT革命、携帯ブラウザ・jig.jpの挑戦

京都駅から特急に乗り、一面に広がる田畑や長いトンネルを抜けながら1時間半ほど進むと、こぢんまりとした風景が広がる田舎の駅にたどり着く。

福井県鯖江市。人口約6万7000人のこの町は、メガネ産業で栄える町として知られる。国内シェア90%以上、世界シェアでも約20%とイタリア、中国と並ぶ一大生産地だ。最近では、米国の共和党副大統領候補のサラ・ペイリンが愛用するメガネを生産していることでも脚光を浴びた。メガネの町を代表するビルとして市民に親しまれているのが、屋上の赤いメガネがトレードマークの「めがね会館」だ。ところが近年、このビルは鯖江市民から別の愛称で呼ばれることがある。

鯖江ヒルズ--。東京の六本木ヒルズになぞらえてつけられた名前だが、こう呼ばれるのには理由がある。鯖江で会社を興し、成功を収めているITベンチャーが入居しているからである。その会社の名前は「jig.jp(ジグジェイピー)」。携帯電話用のソフト開発会社だ。社長を務めるのは地元出身の福野泰介。29歳の若手経営者である。

ジグジェイピーは営業の利便性から本社は東京だが、会社の土台となるソフトの開発拠点は鯖江にある。さらに社長の福野は、現在も鯖江市内に在住のまま、経営の指揮を執っているのである。従業員数は40名余り、鯖江にいる開発陣は20名弱とまだまだ所帯は小さいが、田舎のITベンチャーと侮ってはいけない。パソコン用に作成されたウェブサイトを携帯電話で閲覧できるソフト「jigブラウザ」は、通信料を安く抑えながら素早く操作できる点が消費者に受け、累計利用者数が約165万人に上る(無料体験含む)大ヒット商品となっている。また、携帯電話向けに動画を長時間配信できる「jigムービー」も、CS放送のスカパーJSATや有線放送大手のUSENが採用しており、開発力の高さは折り紙付きだ。業績は会社設立から3期目で黒字に転換。6期目となる今期も着実に利益を出している。

ITブームと距離 技術重視の経営者

福野は、なぜ鯖江でITベンチャーを起業したのか。

ジグジェイピーを立ち上げた2003年は、ライブドアや楽天など、六本木ヒルズに拠点を構える会社が「ヒルズ族」ともてはやされ、新興IT企業がわが世の春を謳歌していた時期である。鯖江で起業せずに、東京に出て一旗揚げようと思っても不思議ではない。ところが、福野は「東京に行こうとはまったく思わなかった」と淡々とした口調で語る。「ヒルズ族をはじめ、当時の東京のIT企業は夢を語っていたんですが、それを現実化するために、誰がどういったソフトを作るのかという技術的な裏付けがどうもないように見えたんです」。

福野は経営者である前に、根っからのプログラマーだ。ファミコンに影響を受け、小学校3年生からパソコンでのゲーム作りに熱中。コンピュータプログラミングを学ぶために進学した福井高専時代には、一人前のプログラマーとしてすでにアルバイトを始めていた。当時すでに「自分の開発したソフトの営業で東京に出張に行くこともたびたびあった」というほどの高いスキルを身に付けていた福野にとって、当時のIT企業は、「アメリカで成功していたビジネスモデルを日本に持ってきただけのように思えた」。福野は高い技術力をベースにした経営を重視しており、むしろ東京とは距離を置いたのである。

人のマネではない、新しいものを作ることに価値がある--。これが福野の経営理念だ。実際、ジグジェイピーが、開発拠点を鯖江に構えることができるのは、「jigブラウザ」のような他社がやっていなかった新しい商品を生み出してきたからである。ジグジェイピーは中小のソフト開発会社にありがちな大企業の下請けはしない。自社のペースで開発を進められるため、東京に開発拠点を置く必要がないのだ。「鯖江は経済的にもリーズナブルですし、何よりじっくり腰を据えて開発に取り組めるので、東京よりはるかに環境はいいと思いますよ」と福野は言い切る。

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