日本企業と次々クロスライセンス、マイクロソフトが電機業界に触手

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日本企業と次々クロスライセンス、マイクロソフトが電機業界に触手

5月13日はHOYA、8月28日はニコン、そして9月17日はパイオニア。この夏、マイクロソフトは名だたる日本のメーカーとの提携を続々と発表した。その内容はすべて、特許のクロスライセンス(相互利用)契約にかかわるもの。2006年まで4社にすぎなかった日本企業とのクロスライセンス契約は07年に入り急増、この2年だけでも10社に上り、総数は14社まで増えた。しかも全世界でクロスライセンスを結ぶ企業は30社程度とみられ、半分が日本企業で占められている。マイクロソフトは日本企業とクロスライセンスを結ぶことにより、何を目指しているのだろうか。

NAP条項に代わる特許訴訟回避の手段

クロスライセンス契約とは、2社の企業間で、互いの保有する特許を自由に使えるようにする契約。電機、精密業界では、1台の電子機器にさまざまな会社の何百、何千という特許が絡むため、他社の特許使用は避けられない。そのため、互いに訴訟リスクを回避する目的から、同業他社とクロスライセンス契約を結ぶのが長年の慣例だ。

そこにパソコン用ソフトウエアの巨人であるマイクロソフトが食い込んでくるようになった背景には、電子機器のネットワーク化の流れがある。パソコン、携帯電話、家庭用ゲーム機など多くの機器がインターネットを介して互いにつながり合う時代となり、近接する事業領域が拡大。こうした領域で他社の特許を使用する必要性が高まってきている。

知らず知らずのうちに特許を侵害していることを他社から指摘されれば、年間数億本ものウィンドウズを販売するマイクロソフトの被害は甚大だ。同社製品を搭載するパソコンメーカーをも巻き込む大規模な販売差し止めにつながるだけに、マイクロソフトが最も恐れるリスクだ。

マイクロソフトはそうした変化に対応し、IBMで長らくクロスライセンス戦略を率いてきたマーシャル・フェルプス氏を知財担当責任者に招聘し03年12月、知財戦略の方針転換を発表。「オープンイノベーション」を旗印に、クロスライセンス戦略を開始した。「初めにクロスライセンス契約を結んでしまえば、開発の段階で他社の特許を侵害していないか、事前にいちいち調べる手間が省ける」(マイクロソフト日本法人の伊藤ゆみ子法務・政策企画統括本部長)。

かつて、マイクロソフトを特許侵害訴訟から守ってきたのはNAP(特許非係争)条項と呼ばれる大手パソコンメーカーとの契約だった。ウィンドウズを割安な価格で提供する契約と引き換えに、仮にマイクロソフトが特許侵害をしていた場合にも同社を訴えないという条件をパソコンメーカーにのませてきた。1990年代までソフトウエアは著作権分野であり、マイクロソフトはほとんど特許を持っていなかったため、クロスライセンスをやりたくてもやれない事情があった。

だが、マイクロソフトによる画像圧縮技術の特許侵害が表面化したことから、日本企業との対立が深まる。04年に日本の公正取引委員会がNAP条項に排除勧告を出すなど、これを問題視する規制当局の圧力が強まりつつあった。その同じタイミングでクロスライセンスを行えるだけの特許力を整えていたマイクロソフトは、NAP条項を廃止。クロスライセンス戦略に舵を切ったわけだ。

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