マレーシアの歴史的政権交代はなぜ起きたか そのとき、現地の人々が取った行動とは?

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長年、長期政権の庇護を受けてきたマレー人はなぜ希望連盟に投票したのか。今回セランゴール州で希望連盟候補の選挙活動をしたマレー系学生のモハメド・シュクリさんはマレー津波が起きた理由は3つあるという。

「第1に、前政権によって(消費税など)生活コストが上がったこと。マレー人の多くも政府の汚職やスキャンダルに対してうんざりしていた。第2に、この10年ほど、野党政権がペナンやセランゴールの州政治の実績で、国民戦線よりずっと良いと証明したこと。第3にマハティール氏やアンワル・イブラヒム氏のほうが、マレー人にとってナジブ氏よりも馴染みがあったことだ」

一方、華人たちも、マハティール政権を歓迎する。東南アジアの地域紛争の専門家としてサバ大学の准教授を務める大石幹夫さんは、華人にとって希望の持てる結果だとする。

財務大臣として入閣した華人のリム・グアンエン氏(左)。希望連盟を支持したモハメド・シュクリさんと共に(写真:モハメド・シュクリさん提供)

「特に財務大臣として初めて華人で現ペナン州首相のリム・グアンエン氏が選ばれたことは画期的で、これまでと違って、今後は能力のある人物は民族に関係なく登用されることの表れです」と解説する。さらに 「内務大臣と防衛大臣という国の内外を固める役割をマレー人に託したことは、マレー人の不安を鎮めるのではと思います」と推測する。

マラヤ大学歴史学科で博士号を取り、地元日本語メディアの編集長を務める伊藤充臣さんは、今回の選挙を民族別政党の終焉だと位置付ける。

「国民戦線の各党はそれぞれマレー人、華人、インド人しか入れない民族の利益代表者ですが、希望連盟の人民正義党(PKR)や民主行動党(DAP)の各党は、どの民族も党員加入ができる。今回の選挙の対立軸は、各民族の利益代表者なのか、すべてのマレーシア人のための集団にあったのでは」と分析。続けて「驚いたのは、人々に民族の垣根を越えてマレーシア人の意識がしっかりと根づいたこと。また人々が冷静に事態を受け入れ、暴動が発生しなかったことは国民の成熟の表れでしょう」と評価する。

高い投票率を支えた国民の努力

悪条件にもかかわらず、投票率は82.3パーセントとなった。

筆者の友人、知人も多くが投票。投票の印であるインクで汚れた指をSNSでシェアした。インド系マレーシア人の友人は「シャーアラムの投票所は大混雑で4時間も並んで投票した」と話す。今回は今の体制を変えたいと、初めて投票したという人も少なくなかった。

マレーシア人はWhatsAppやフェイスブックなどのSNSで盛んに政治の話をする。選挙前はどこへ行っても選挙の話題で持ちきりだった。

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