米朝会談を裏から操っているのは文大統領だ あらゆるシナリオを描き、先手を打つ兵法
以上をまとめると、こういうことになる。南北首脳会談によって生まれた前向きな雰囲気のおかげで、米朝首脳会談への展望はかなり好ましいものになった。だが、期待が先行しすぎるリスクも抱えている。トランプ政権としては、米朝首脳会談に向けて成功のハードルが高くなりすぎないよう、期待値ラインをそれなりに低いところに押さえ込んでおきたいと考えているのではないか。
期待値のコントロールは、特に大切だ。非核化をめぐる米朝の溝が埋まらない可能性が高いからである。先日の板門店宣言では「南と北は、完全な非核化を通して、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と、明記された。
“4手先”を読む2つのコリア
だが、これを見ると、1992年に発効した南北非核化共同宣言から北朝鮮のスタンスは一切、変わっていないことがわかる。南北非核化共同宣言には、「朝鮮半島の非核化を通じて核戦争の脅威を一掃するべく(中略)南と北は核兵器の実験、製造、受け入れ、保有、貯蔵、配備、使用を行わない」と、記されていた。板門店宣言は26年前の合意内容から後退している、といっても過言ではなかろう。ひいき目に見ても、せいぜい同じだ。
非核化について、文大統領が南北首脳会談で最低限の合意しか引き出せなかった可能性が高いことをうかがわせるものであり、米国と北朝鮮が核について歩み寄る可能性が低いことを示唆している。
最近の報道によれば、トランプ大統領は北朝鮮の完全な非核化を“一発”で決めたがっている。遅くとも大統領任期中には、この問題にけりをつけたいと考えているようだ。非現実的というほかない。
だが、速攻で勝ちを急ぎたがるトランプ大統領の性格を考えると、同氏をこのような短絡的な思考回路から引きはがすのは難しい。文大統領は引き続き最善を尽くすだろうが、米朝首脳会談が現実にどのように展開するかをコントロールするのは所詮、不可能だ。
そこで、文大統領にとって重要になってくるのが、米朝首脳会談後に向けて手を打つことなのである。会談がうまくいけば、前向きな流れを維持し、会談がうまくいかなければ、失敗のダメージを和らげ、米国が再び「炎と怒り」の好戦的なスタンスに戻らないよう制止する、ということだ。
今後の展開に影響力を行使できるよう、共同宣言に一連の外交予定を組み入れたのには、こうした理由がある。この点こそが、南北首脳会談における最大の(そして、メディアがもっとも過小評価している)ポイントだといってよい。