しなの鉄道「有料ライナー」計画は成功するか グリーン車並み座席指定車なら採算取れる?

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しなの鉄道では2015年3月14日のダイヤ改正まで、朝の快速「しなのサンライズ」と夜の快速「しなのサンセット」の利用に200円の乗車整理券を必要としていた。だが、同改正で「しなのサンライズ」の車両をJRの特急形車両から近郊型車両の115系に置き換えたことに伴い、乗車整理券と1カ月平日定期券を廃止。現在は追加料金不要の快速列車となっている。

玉木社長は「新型車両を導入して、有料の通勤ライナーを復活させたい」と述べつつ、「上田駅―長野駅間では『しなのサンセット』が26分なのに対して、新幹線は11~12分。速度でかなわない。また、ライナー料金の設定も悩みの一つで、当社の普通運賃770円にライナー料金を上乗せすると、新幹線の1440円(普通運賃+自由席特急料金)に近づいてしまう。適正な料金設定を検討する必要がある」と課題を示す。

しなの鉄道線の上田駅―長野駅間の1カ月定期券は2万6570円なのに対して、新幹線は4万8590円で、その差は2万2020円である。だが、これにライナー料金を上乗せすると新幹線との差は縮まり、価格面での優位性は低下することになる。所要時間は新幹線の倍以上を要し、運賃・料金面でも差は大きくないという現状で、しなの鉄道の「通勤ライナー」を成功させるカギは、新幹線とは違った魅力で消費者に訴求することにあると考える。

座席指定車の導入はどうか?

京阪電鉄「プレミアムカー」の車内(撮影:ヒラオカスタジオ)

たとえば、京都―大阪間でJR東海道本線・阪急京都線と競合する京阪電気鉄道は、速度面でJRに、高級感で阪急に対して劣勢に立たされていたが、2017年夏から最高級車両「プレミアムカー」を導入して差別化を図っている。京阪プレミアムカーはハイスペックな座席を1+2列で配置し、高級感を演出している。しなの鉄道も高級な座席指定車両を導入して、「動く書斎」といったセールスポイントで売り込んではどうだろうか。

そこで、今回はしなの鉄道に有料座席指定車両を導入した場合の採算性を分析してみた。

想定としては、「通勤ライナー」のような別建ての列車とせず、一般座席車両を併結する3両編成または4両編成の中に、運転台やモーターのない中間車両として座席指定車両1両(座席数40席)を連結する形態とする。座席指定車両の導入費用を1両当たり2億1600万円(JR東日本中央本線グリーン車と同額)と仮定した場合、どのような条件を満たせば収支が均衡するのかを考えてみよう。座席指定システム構築費用は「ろくもん」のシステムを流用すると想定し、ゼロとする。

なお、ここから述べる試算での各種条件は、あくまで採算性分析のために筆者が想定した条件であり、しなの鉄道において現時点で決定している条件は存在しないことをお断りしておく。

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