こうした投資は、「投機」という言葉から想像されるようなイチかバチかの一獲千金的投資ではなく、金融テクニックと情報を活用して、組織的に行われる。
運用主体はさまざまだ。ヘッジファンドと呼ばれるファンドが運用することもある。また、欧米の金融機関がペーパーカンパニーのSPVを設立し、多額の資金を調達・運用する動きも広がった。これは、「シャドーバンキング」と呼ばれるものだ。
こうした運用主体は、監督官庁の監督下にないので、リスク投資を安易に増大させる。しかも、ケイマン諸島などの「オフショア」に書類上の本籍を置くので、その実態はわからないことが多い。
以上のようにハイリターン投資が必要となった事情があるが、それを可能とした事情もある。
第一は、国際資本取引の自由化だ。資金は投機対象を求めて国境を自由に越えるようになった。為替差益も大きな利益源泉となった。もう一つの条件は金融緩和が常態化したことだ。金融緩和下では借入が容易になり、バブルが起こりやすくなる。
借入で投資額を増やして収益率を高める
高利回り投資の基本的な手法は、「レバレッジド投資」だ。元本だけを投資するのではなく、短期資金の借入をして投資額を増やす。こうすれば、投資対象の利回りが変わらなくとも、元本の収益率(ROE)は上昇するのである。
これを数値例で示そう。いま、1億ドルの資産を運用するものとする。投資対象は、2分の1の確率で5%のキャピタルゲインを生む資産だ。運用結果は1.05億ドルか1億ドルになる。平均利回りは2.5%だ。
ここで、9億ドル借りて投資総額を10億ドルにする。借入利率は1%とする。結果は、10.5億ドルか10億ドルになる。借入金の元利返済はどちらの場合も9.09億ドルなので、元本は、1.41億ドルか0.91億ドルになる。平均利回りは16%に上昇する。
これは無条件に望ましいことだろうか。借入しなければ、元本割れはない。しかし、レバレッジを掛けたことで、元本割れの危険が生じる。つまり、リスクが増えているのだ。
米国では、サブプライムローンと呼ばれる信用度の低い住宅ローンが登場した。高リスクだが、複数のローンをまとめて証券化すれば、分散投資の効果でリスクは低下する。証券化された商品は、MBSと呼ばれる。こうした手法は以前から存在していたが、00年代になってCDOが「発明」された。これは、複数のMBSをまとめて、リスクの切り分けを行う手法だ。こうすると、収益率が高くてリスクが低い投資商品を作れる。原理的には正しい手法であり、ごまかしではない。また、CDSという手段も「発明」された。これでリスクを回避することができる。
ただ実際には、これらの手段は、無謀なリスク投資に用いられた。米国の金融危機は、新しい金融手法が理論どおりに用いられなかったことによって引き起こされたものだ。
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