4K/8Kの「ACASチップ」が外付けになる事情 次なる課題は「民放のコンテンツ」の中身

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①の「ACASチップ」を標準搭載することに関しても、再考が必要だが、すでに4K/8K次世代放送サービス向けに開発されているシステムが、本来は別々の目的である暗号化とアクセス制御機能が一体化された前提で作られてしまっていることもあり、今年12月発売というスケジュールを考えれば、今からこうした根本部分に手を付けることは難しい。

②に手が付けられたことはそれなりに評価できるが、この手法は問題の先送りでしかなく、全チューナーに対して外部モジュールの装着を必須としてしまうやり方が全体から見れば悪手であることに変わりはない。世界中、どこの国でもこうした手法は採用していない。また。外部モジュールにすることが“可能である”というだけで、そのコスト負担を含めてどうなるのか、外部モジュールは標準化されるのか(今からでは間に合わないため標準化は難しいだろう)といった問題があるのに加え、ACAS協議会が指定する商社からの部品購入を求めているなど商流に関しても異論は出てくるだろう。

しかし、「4K/8K次世代放送サービス対応チューナー搭載テレビの製品化」という観点だけで言えば、大きく前進したことは間違いない。消費者側の視点で言えば、今回のことで表面的な問題は解決する側面が多く、ACASを取り巻く混乱は沈静化していくと見られる。

受益者負担の仕組みをどうするのかといったテーマは、ACAS協議会参加企業とそれ以外の放送事業者、それにメーカーの間で、引き続き調整が必要である。が、2018年12月の放送開始が間近になっている現在、「各テレビ局が視聴者にとって魅力のある4K/8K次世代放送サービスを提供するのか否か」に目線を移すべきだろう。

民放は“特等席”を優先的に確保

たとえば、BSデジタル放送の場合、NHKや有料チャンネルの放映内容には納得している人も多いだろうが、民放在京キー局の無料放送に関しては“力が入っている”とは言い難い、海外ドラマや自主制作ドラマの再放送、通販番組などが多い。地上デジタル放送ではカバーできないスポーツ中継がBS側で行われるなど、補助的な使われ方もしている。

広告価値が制作費用に直結する民放の場合、致し方ない面はあるが、4K/8K次世代放送サービスに関しては、民放にも割り当てられた帯域をしっかりと活用してもらう必要がある。なぜなら、4K/8K次世代放送サービスを行なうためのチャンネル割当再編で、民放在京キー局は“特等席”ともいえる場所を優先的に確保しているからだ。

NHKはすでに4K、6K、8Kなど、高精細映像などで収録、編集を積極的に行っており、豊富なコンテンツを放送していくことは確実だろう。しかし、多様な番組構成は民放在京キー局にその役割が求められる。

BS衛星を用いて放送される次世代放送サービスだが、幅広い世帯で視聴可能な「右旋波」を用いた4K放送用の送信スロットは、BS朝日、BSジャパン、BS日テレ、BS-TBS、ビーエスフジ、NHK(4K)に割り当てられている。これら6局は、4K放送枠を従来と同じBS放送のシステムを通じて送出する。

それに対し、ショップチャンネル、QVC、映画エンタテインメントチャンネル、WOWWOW、NHK(8K)の放送は同じ周波数で異なる放送ができるよう新たに打ち上げられた「左旋波」の衛星を通じて放送される。

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