渡った先にエサがない渡り鳥が多発する理由 「生物季節のずれ」で命が危うい動植物5つ

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「恋路」を邪魔されるランの花

サソリランの一種は、繁殖のためにハチをだます。春になると咲く花にはハチそっくりの深紅のふくらみがあり、おまけにフェロモンまで発する。これに独り者のオスバチはすっかりだまされて、目の前の花を結婚相手のメスだと思い込んでしまうのだ。これが受粉の大事なステップだ。

専門家が「疑似交接」と呼ぶこの計略がうまくいくのは、ランが春の限られた時期に開花するからだ。これはオスバチが冬眠から覚めて出てきた直後で、メスバチがまだ出てきていない時期にあたる。

メスバチが早く出てきてしまう

だが春の訪れが早くなると、メスバチが出てくる時期も早まり、ランからオスバチを奪ってしまうらしい。

2014年に発表された英国の研究では、過去1世紀余りのデータを分析。気温が1度上がるごとに、オスバチとメスバチが出てくる時期のずれは6.6日縮まることがわかったという。その分、ランが繁殖するチャンスは減ってしまう。

「ランの受粉にとって事態は悪いほうに向かっていることがわかった」と、この論文の主著者である英イーストアングリア大学のアンソニー・デービー教授(生物科学)は言う。すでに希少種であるこのランの未来には暗雲が漂っていると彼は言う。

渡り鳥、渡った先にエサはなし

ヒタキの一種は春、厳密なスケジュールに従って行動する。

冬をアフリカで過ごしたヒタキは、欧州でシャクガの一種の幼虫が孵化するのに合わせて産卵するために北に向けた長い旅をする。幼虫が発生するのは、オークの新芽が食べられる春の数週間の間だけだ。

幼虫の発生に時期を合わせ、ヒナが卵からかえったときに十分なエサがあるようにするわけだ。だが2000年代にオランダで行われた一連の研究によれば、うまく時期を合わせられないヒタキの例が多く見られるようになっているという。

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