「生産性2.4%向上は可能 政府は具体的な工程示せ」 リチャード・カッツ

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日本で生産性革命を進める条件は何か

 アナリストたちは、日本の生産性革命は進行中であり、02年以降、生産性は上昇していると指摘する。ただ、生産性は景気変動に影響され、短期的に間違ったシグナルを発することがある。不況期には生産が労働時間以上に落ち込み、生産性向上が一見低下したように見える。需要が回復すると、逆の現象が起こる。こうした特徴を考慮に入れると、日本の生産性向上が長期的に加速しているという明確な根拠はない。

 大手企業のROA(総資産利益率)が91~02年の3・3%から4・7%に上昇したことを生産性改善と見る向きもある。だが増益の理由は、賃金の抑制にある。02年以降、従業員1人当たりの売り上げは14%増えたが、賃金は若干低下している。

 では日本が“生産性革命”を成し遂げるには何をすべきなのだろうか。IT革命を進めるだけでは不十分だ。日本企業はすでに巨額の資金をITに投資しているからだ。しかし、アメリカ企業が実現したのと同じような成果を上げるには至っていない。アメリカで実現していて日本で実現していないものは何か。それは統廃合を含む“企業のリエンジニアリング”である。熾烈な競争にさらされている部門では優れたアイデアを持った新しい企業が古い企業に取って代わっている。これまで日本の“リストラ”とはコスト削減でしかなかった。合併は競争を抑制し、効率性を低める結果を招いただけであった。

 各産業の生産性動向を比較すれば、最も成果を上げているのはいつものことながら輸出主導型の部門である。機械部門では驚くべき生産性の向上を実現している。しかし、サービス部門、流通部門、建設部門などの生産性は停滞している。最も改革が必要ない部門で最も改革が進み、最も改革が必要な部門で改革が進んでいないのが日本の現実である。

 企業改革の成否は政府の政策次第である。小泉政権は不良債権問題に対して厳しい姿勢で挑んだため、銀行はゾンビ企業を支えるのが困難になった。会計ルールの強化と厳しい適用によって、企業は赤字事業を隠すことができなくなり、事業の縮小や分離に追い込まれた。金融ビッグバンは、外国投資を大幅に増加させ、業績が低迷すれば、企業の支配権を失うことを経営者に理解させた。

 過去10年間に日本が前進を遂げたことを否定する人はいない。しかし、政府が川の半ばで泳ぐのをやめれば、誰も川の向こう岸まで泳ぎ着くことはできないだろう。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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