東京臨海部の貧弱交通はロープウェーが救う 地下鉄より短時間で移動でき、建設費も安い

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――ほかにもさまざまな工夫を考えていますね。

スキー場その他の観光地で多数導入されている高速のロープウェーは、ふもとと高地を結ぶ2地点間の輸送が目的です。大都市の交通システムとして導入するには駅を多くします。

各駅停車と急行を運行して短い駅間と長距離の速達性を両立させます。各駅にて、停車するゴンドラのみがロープを放して低速移動で乗り降りできるようにし、ほかのゴンドラはロープをつかんだまま通過し停車中のゴンドラを追い越します。

――建設費用はどのくらいかかりますか?

かつて、江東区長による汐留―有明5.5kmの構想が報道され、250億円でした。1km当たり45億円強です。私の提案は、急行運転・1駅間毎の独立制御・地下鉄の通る既存道路への建設といった増コスト要素があるので、1km当たり80億円くらいと見込みます。

それでも工事費は300億円程度で、地下鉄の8分の1以下です。もちろん、工期も短く済みます。

――実現すれば地下鉄より便利で、安く早く造れそうですが、世界では実現例があるのですか。

たくさんあります。市街地内で高低差のある南米では、コロンビアのメデジンその他、多くの都市で活躍しています。2012年の五輪時に建設されたロンドンでは、秒速6mで14秒ピッチの運行です。シンガポールのセントーサは2010年に更新されました。

ロープウェーは都市交通として優れもの

――ロープウェーの速度は遅いのでは?

秒速5~8m(時速18~30km弱)と速くはありませんが、バスのように渋滞や交差点停車による遅れはなく、都バスよりはるかに高速です。乗車時間は地下鉄より長くなりますが、地上と行き来する時間と待ち時間を加えたら、はるかに短時間です。

――輸送力は足りますか。

輸送力は、ゴンドラ(搬器)定員と運転時隔の組み合わせにより決まります。定員10人のゴンドラが30秒おきでは1時間1200人、定員50人のゴンドラを12秒おきとすれば1万5000人になります。定員130人の連接バスを30秒おきに運行するのと同じくらいです。

(高速かつ高頻度に改めた)環状2号線のBRTと晴海通りのロープウェーの2本立てで、未来にわたり臨海部の交通を十分に賄え、その発展を支えられます。

――風で止まる不安定性はありませんか。

風で止まるのは古いタイプです。1990年代以降、ロープ2本のフニテルという方式が普及し、風に強くなりました。たとえば箱根ロープウェーは、運転中止の風速が毎秒20mから30mへ引き上げられ、通常の鉄道よりも風に強くなりました。台風の直撃以外はほとんど止まりません。

――実現する上での最大の課題は何でしょうか?

「部屋をのぞかれる」「景観の邪魔」といった反対の声があります。前者は走行区間を検知し、そういった区間だけスモークとなるガラスにすれば解決できます。後者は私が子供の頃に未来の都市としてよく見た高架を近代的な交通システムが行き交う絵のように、ロープウェーを景観の邪魔ではなく未来都市のシンボルと前向きにとらえたいです。

――国内で都市交通としてのロープウェーの例はありますか。

1989年の横浜博覧会の際、横浜駅東口の横浜そごうと会場を結ぶのにロープウェーが使われました。撤去されたのが残念ですが、最近、それを復活させるように、横浜駅東口と山下ふ頭を結ぼうとの構想が進み始めました。かつては渋谷にもビルとビルを結ぶロープウェーがありました。

福岡では、博多駅と博多港ウォーターフロント地区を結ぶ大博(たいはく)通りの上にロープウェーを通そうとの構想があります。

ロープウェーを都市交通に使おうとは思いもよらないでしょうが、数km程度の移動には実は非常に優れ物で、近年の世界の趨勢なのです。日本で最も人口増加が進みつつ交通が貧弱な東京臨海部に導入しようとの声が高まり、実現に結び付くことを願っています。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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