日産「アルティマ」が全米へ訴求する革新技術 NYショーで唯一、新型セダンを披露した理由

✎ 1〜 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 最新
拡大
縮小

レシプロエンジンの限界を打ち破る画期的技術であるVCターボだが、非常に複雑なメカニズムとなるため、少なくとも当面は日本だけで生産するようだ。

ニューヨークの記者会見で新車を披露したのは北米日産の会長であるデニス ・ル・ヴォット氏、今年の1月にルノーからアメリカに送り込まれたばかりの53歳のフランス人だ。この新会長の北米デビューとしてもNYショーはうってつけであったのかもしれない。

ニューヨーク国際自動車ショー。日産のブース(筆者撮影)

日産が2007年に発表した技術論文によればこの技術の開発者は5人とも日本人だ。量産にこぎつけるまで10年以上をかけていることになる。自分たちで発表したかったことであろう。

デニス ・ル・ヴォット氏がフランス語訛りの英語で日産渾身の新型アルティマをニューヨーク自動車ショーで紹介するスピーチを聞いたとき、“♪新しい上司はフランス人”という、缶コーヒーのCMで使われた古い歌のフレーズを思い出してしまった。

ミドルサイズセダン市場の厳しさ

そんなアルティマが属するミドルサイズセダンは、近年のSUVブームを受けて北米で最もシュリンクしているカテゴリーでもある。2015年には約250万台ほどだった市場は、2017年は200万台を大きく割って180万台前後へと落ち込んでしまった。相当な急減である。

このトレンドにおいて2017年のトップセラーであり、販売台数を落とさなかったのが、同年7月にフルモデルチェンジをしたトヨタ・カムリなのだが、自動車販売の現場では「新車効果だけではない」という指摘がある。

カムリはバリバリの新車にもかかわらず、当初から販売奨励金(インセンティブ)を積んで日本円でいえば1台当たり30万円前後の値引きを行っていると現地の自動車販売業者の間でささやかれている。利益率の高くないレンタカー向けにもフルモデルチェンジ前と変わらない勢いで新車を卸していたようだ。

今年2月6日に行われたトヨタの決算発表では、北米事業の収益が2017年10~12月期に前年の1013億円から270億円へと実に743億円もの減益となったことが明らかにされた。その理由の1つに生産台数の減少が挙げられていたが、同期間での販売台数は前年の74.5万台が73.5万台へと1万台減っただけにすぎない。

減益要因で大きいのは、もう1つ挙げられている販売奨励金の増加であろう。ミドルサイズセダンの市場が縮む中でもカムリの販売が健闘したのは、これが大きいと言われている。トランプ政権の打ち出した法人減税効果で一時的に純利益見通しを31%増の2兆4000億円に上方修正した明るいニュースに隠れて話題にはならなかったが、アナリストの中には稼ぎ頭の北米での販売奨励金の使いすぎに疑問を呈する声もあったらしい。

さすがにトヨタはその後、カムリの過激な値引きを縮小させたようだが、この現象はミドルサイズセダン市場の厳しさを物語っている。ニューヨーク自動車ショーで画期的な新技術をひっさげて、華々しく発表された新型アルティマだが、それをもってしても楽ではない戦いがこれから待ち受けている。

森山 一雄 自動車ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

もりやま かずお / Kazuo Moriyama

海外事情通の自動車業界ライター。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT