理研、科学技術で勝つための「7年計画」の中身 予算はドイツの研究機関の3分の1だが・・・

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人材も豊富。2009~2017年にノーベル賞学者の利根川進氏が脳科学総合研究センター長を務めていたし、iPS細胞による加齢黄斑変性治療法を開発した髙橋政代プロジェクトリーダーや、113番元素「ニホニウム」を発見した森田浩介・超重元素研究開発部長なども在籍する。スーパーコンピュータ「京」や、放射光によって物質を原子・分子レベルまで調べることができる「SPring-8」「SACLA(さくら)」は理研の研究施設だ。

今回の中長期計画の目玉は3つある。筆頭格といえるのが、「イノベーションデザイナー」の創設だ。100年後にあるべき社会の姿、その実現に向けてどんな科学イノベーションが必要か。そのシナリオを描く松本理事長肝いりのプロジェクトだ。

「のろしのような原始的な通信手段から電気通信が生まれ、インターネット時代を迎えたように、これから先どのような技術が求められるのかを考える」(小安重夫理事)。その実現のため、東京中央区の拠点に未来戦略室を新設。高橋恒一氏(バイオコンピューティング研究者、理研)、西村勇哉氏(NPO法人ミラツク代表)、三ツ谷翔太氏(アーサー・D・リトル)らを中核とした若いメンバーで討議を重ねていく。

また、これまでの境界にとらわれない、横断的な新しい領域の創設を目指す開拓研究本部の設置や、産学連携プラットフォームとしてイノベーション事業法人の創設なども検討されている。イノベーション事業法人は、一般企業にとって近寄りがたいアカデミアの門戸を広げ、アクセスを容易にする。いきなり研究者を訪ねるのは勇気がいるが、間に立って相談に乗ってくれるリサーチアドミニストレーターを窓口として置く。「単なるつなぎ役ではなく、求められるサイエンスに深く通じている点が特長になる」(小寺秀俊・理事兼科技ハブ産連本部長)。

松本紘理事長は、海外のトップ研究所をベンチマークとしている(記者撮影)

松本理事長は「(規模や研究内容が似通っている)ドイツのマックス・プランク研究所と肩を並べる存在になりたい」と意気込む。今後7年間の運営費交付金を中心とした総収入は6543億円を想定。ここ数年、毎年1000億円前後の収入であることを考えたうえでのミニマムの想定だが、いずれにせよ、海外のトップ研究所に追いつくにはかなり厳しい。「マックス・プランクの予算は理研の3倍の規模」と松本理事長は言う。

若手の終身雇用資格者を増やす

理研は著名な海外の科学者の招聘や、突出した若手研究者に年俸1000万円を拠出し、研究チームリーダーとして7年間自由に研究させる「理研白眉制度」などをスタートさせている。また、若手研究者は5年程度の有期雇用が多く、研究に集中しづらい、短期での成果を求められ基礎研究ができないなどの問題を抱える。その解消に向け、今後はテニュア(終身雇用資格者)を増やしていくという。

ただ、こういった施策には資金が必要だ。たとえば海外の研究者の招聘には、日本人研究者の数倍のコストがかかるといわれている。予算が限られる中、どこまで実現できるのか。

かつて理研は持てる科学技術で次々に起業し収益を上げる事業モデルを構築し、戦前には理研コンツェルンと呼ばれるまでになった。戦後の財閥解体で企業は独立し、今でも上場企業として生き残っている会社にはリケン(ピストンリング)やリコー、理研ビタミン、科研製薬など社名にその名残があるもの、合併などで理研の技術を吸収した協和発酵キリンやオカモトなどがある。

今では多くの制約により同様の手法を取ることが難しくなってしまったが、今後、TLO(技術移転機関)などのような形で独自に資金を調達する道も探りながら挑戦を続けることになる。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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