「病死」扱いの無念、犯罪被害者は2度殺される 死因究明に不可欠な解剖が軽視される日本

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 事実、過去の有名なケースとして2007年に起きた相撲の時津風部屋における傷害致死事件がある。当時17歳だった力士が稽古中に急死し、最初に搬送された病院で急性心不全と診断された。

愛知県警は司法解剖を行わず、事件性なしと判断した。遺体を受け取った新潟に住む両親が不審に思い、新潟県警に相談し、遺族の強い希望で新潟大学の法医学教室で解剖が行われた。その結果、病死ではなく、激しい暴行によって死亡したことが明らかになった。

このような例は氷山の一角だとの専門家の指摘もある。日本では犯罪によって殺された被害者が病死として葬られている事例が数多くあるかもしれないのだ。それは犯人が逮捕されることなく社会で生活していることも意味し、新たな犯罪を起こす可能性もある。

「司法解剖」以外にも複数の解剖がある

さらに日本では「行政解剖」という制度もある。

「司法解剖」に対して、「行政解剖」は事件性が認められなくても死因を究明する必要がある場合に行われる。ところが行政解剖を行う主体となる「監察医」の制度があるのは東京23区、大阪市・名古屋市・神戸市の4地域だけだ。実質的に機能しているのは、東京23区と大阪市、神戸市だけと言われ、そのうち常勤解剖医を配置し、組織も比較的しっかりしているのは23区を対象とする東京都監察医務院だけだ。興味深いのはいずれも都府県の組織なのに中心部の東京23区や政令市地域内だけを対象としていることだ。

これは1947年に公衆衛生を目的として人口上位の7都市だけを対象にした経緯があるからだ。その後、京都市、福岡市、横浜市で廃止された。その他の自治体では、司法解剖と、遺族の承諾の下で遺族や自治体等が費用を負担する「承諾解剖」があるだけで、地域によって死因の究明体制に大きな格差があるのだ。

納税者の立場からも監察医の偏在はおかしい。たとえば、死因が事故死か病死かで個人が契約している保険の保険金額が変わることも多い。監察医のいる地域では事故死であることが明らかになる場合でも、いない地域では病死などで片付けられる場合もある。

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