日本が「インフレになるはずがない」根本理由

アトキンソン氏「ペスト時の欧州に学ぶべき」

たしかに一般的な経済学の教科書では、人口の増減が経済に与える影響は、詳しくは語られていません。それは今まで、今後の日本のように急速に人口が激減する先進国が存在せず、人口減少の影響を経済学では語る必要がなかったからにすぎません。人口の動きが経済にほとんど影響を与えないからではないのです。

先ほども述べましたが、日本はこれからどこの先進国も経験したことのない「大・人口減少時代」に突入するのです。経済が正常な状態だからこそ効果を発揮する通常の政策は、異常事態を迎える日本経済では効果を発揮しないのです。

かつて人口が半減した地域で何が起きたのか

私は「『低すぎる最低賃金』が日本の諸悪の根源だ」という記事で、日本の最低賃金を2020年までに1300円にすべきだと主張しました。それに対して、一部の人からは「そんなことすれば、物価も一緒に上がってしまい、結局、国民は豊かにならないから無駄だ」と反論の声が上がりました。

私はこの意見も間違っていると思います。人口が激減する日本では、物価はそうやすやすとは上がらないのです。

今後数十年、日本では比較的短い間に人口が激減してしまいます。このような例は、人類の経験してきた歴史上には存在しないと思われがちですが、実はあるのです。

それが、1348年から始まった黒死病、ペスト大流行の時代の欧州です。ペスト流行の後、30年ほどで、欧州では生産年齢人口を中心に人口の約半数が亡くなり、社会は激変し、社会制度が根っこから崩壊しました。

日本も2060年までに、2015年比で生産年齢人口の約43%が減ると予想されていますので、ペスト大流行時の欧州と似た状況になります。650年以上前のこととはいえ、欧州での出来事は日本の未来を占う上で、きわめて多くの示唆に富んでいると言えます。

ペスト大流行で人口が大幅に減ってしまった結果、欧州の資本家(領主)は大打撃を受けました。ペストが起きる前は、労働者の供給が過剰だったため、労働者は立場が弱く、資本家に服従するしかありませんでした。献身的に一所懸命働く一方、何かを要求するわけでもなく、耐え忍んでいました。何か、今の日本人の労働者に似ていないでしょうか

しかし、ペスト流行の後、農業を営む人間が足りなくなってからは立場が逆転し、彼らの性質も様変わりしました。

この時代から自営の農家が誕生します。耕す人が少なくなったため、地主は農地を貸すようになり、固定の地代をもらうだけになりました。農家の努力によって増えた利益は農家自身のものになったため、地主である貴族の収入は減りました。1347年から1353年までの間だけでも、英国貴族の収入は2割減ったと言われています。

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