有限責任化は以前よりも増して会計士責任が重い--加藤義孝・新日本有限責任監査法人理事長
公認会計士法の改正により、有限責任監査法人の第1号として登録された最大手の新日本有限責任監査法人。新組織の下で8月末に就任した新理事長、加藤義孝氏に有限責任化の狙いや国際会計基準についての持論を聞いた。
--7月から有限責任法人化したわけですが、その狙いは。
有限責任法人になって何が違うかと言えば、社員一人ひとり、パートナー一人ひとりの業務責任を明確に分けることができることがポイント。いわば経営の効率性向上という面が大きいと思います。
もともと監査法人は無限責任からスタートしました。監査法人は非常に限られた少人数の組織体ということが前提でしたので、全員で経営しお互いにそれぞれの監査業務に関して、全員が無限で連帯責任をとっていく形でも、組織としてはうまく機能していたわけです。
それが今では、当法人で6000人近い組織になった。いわゆるパートナー(代表社員・社員)だけでも700人を超す。組織が大きくなって、全員が無限で連帯責任をとり、全員が経営に参加するという形の組織体にしては肥大化しすぎており、円滑な運営が難しくなってきた。
そこで有限責任法人になれば、監査業務をやっている人間は、自分が担当する監査業務に関して業務を遂行し、なおかつそれについては責任もしっかりとっていけばよい。経営の執行に当たる人間は経営執行に専念していける。その代わり、全パートナーが経営執行に当たる人間に権限を移譲していくという形です。
--公認会計士の責任担当範囲が狭まる(有限)わけで、担当会社への賠償責任などが有限化されることはないのですね。
監査業務を前提にすると、自分の担当会社から何らかの訴訟を受けた場合、担当しているパートナーはその監査業務に関して代表権、責任権も持っているわけで、訴訟に対する無限の責任を負う形になります。
通常訴えられたときに、監査法人が一義的に損害賠償責任を負う。金銭的なものでは保険や資本金、法人としての剰余金でカバーするが、それでも負い切れない場合、パートナーは私財を拠出する形になる。
自分が担当している業務には、従来と何ら変わらずに、無限責任を負うことに変わりはないのです。むしろ前よりも自分で責任を負わなくてはいけなくなります。後ろには誰もいない。
--有限責任化には組織のガバナンス強化という目的もあると思います。一般企業だと社外取締役といった、外部の目を入れますが、有限責任法人ではいかがでしょうか。
外部の目という意味では、われわれも社外の会計監査人の監査を受けなければいけないというのがあります。監査法人でありながら、第三者の監査法人による決算書の監査を受けて、監査証明付きの決算書を作成していくという形になります。
また、決算書を公表しますので、外部の目に対するアカウンタビリティ(説明責任)を背負うわけです。
--決算書の公表ではどこまでディスクローズは進むのですか。
具体的にどこまで詳細にディスクローズするかは、まだガイドラインは出ていないのです。ただ、外部公表するのにもう1年ないわけなので、今、うちの法人の中でもディスクローズ対応プロジェクトというのを立ち上げて、開示項目などの作業を進めています。監査法人にとってディスクロージャーは初めてのことで、非常に画期的なことです。
--今年、インサイダーによる不祥事が起こりましたが、原因や今後の再発防止策を聞かせてください。
これは、あってはならないこと、非常に恥ずかしい事件が起きてしまったわけです。原因については第三者委員会を組織し調査しましたが、複合的な要素があると思います。その中で大きいのは、プロの会計士としての職業倫理意識が希薄になってきているということです。
これまで、この道に入ってくるプロフェッショナルは、若い人といえどもわれわれと同じ職業倫理意識なり、社会的使命感というのを持っていると考えていたわけです。しかし、若い人が全体の40%(約2000人)もいる組織になってきますと、職業倫理意識というものについて、もう少し徹底した教育を実施するべきだと痛感しております。
今回の不祥事を機に株式の売買取引は非常に厳しいルールをつくりました。これは職階や所属部門などによって細かく分かれていますが、担当会社の株の売買については、基本的に禁止としました。それから金融機関等を担当している部署、経営執行に当たる部署、また審査等の担当部署については、すべての株式売買を禁止しました。