「裁量労働制」、知らないと損する5つの注意点 実態と異なる労働時間、深夜割増の未払い…
高橋さんが労働担当者としてサインした会社との協定書では「1日の労働時間を8時間とみなす」となっていました。しかし、現場の勤務実態は少なく見積もっても「10時間」だったのです。裁量労働制における労働時間の話になると、「どうせ何時間やっても「みなし」だから変わらないよ」と言う方がいます。しかしそれは大きな間違いです。
裁量労働制では、対象となる業務であって一定の手続きをすれば、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ決めた「〇時間」としてその日の労働時間をカウントすることができます。そのため、1日の労働時間を「8時間」とみなすと、その日は何時間働いても「8時間」です。これが、労使協定で「10時間」とみなしていればその日の労働時間は「10時間」となります。
つまり、法定労働時間の8時間以外に1日当たり必ず「2時間残業している」とみなされるのです。そうすることで、毎日2時間分の残業代が支払われるというわけです。
例えば、わかりやすく時給1,000円の人が裁量労働制の対象となったとしましょう。労使協定でみなし時間を「8時間」としていれば、実際には何時間働いても1日8,000円ですが、これを「10時間」とみなしていれば、実際の労働時間は「8時間」の場合と同じでも支払われる給与は10,000円となるわけです。1か月20日とすれば、同じ仕事をしているのに実に40,000円もの違いが、これが1年間にもなると480,000円の差になるというわけです。
高橋さんはそうとは知らず、裁量労働制の人が2時間分の残業代を受け取れなくなる協定書にサインをしてしまったことになります。結果として、「あいつに同意して失敗した」「経営陣の犬」など同僚から恨みを買ってしまうことになりました。
裁量労働制では「1日10時間」が実質上限になる
「時間外・休日労働に関する協定届(通称・36協定)」で定められている、残業時間の上限は週45時間(特別条項除く)です。したがって、裁量労働制であっても週45時間を遵守しようとすると、みなし労働時間は「1日10時間」が上限に近い協定時間になります。
なぜなら、みなし労働時間を「1日11時間」としてしまうと、その月の稼働日が20日であれば必然的にその月の残業時間は60時間以上となり、36協定の上限時間を超えてしまうからです。実際の労働時間よりも労使協定で締結された労働時間が短く感じる人が多いのは、36協定に抵触しないよう会社が調整したから、という可能性があります。
そのため裁量労働制は、残業代が「少ない」「割に合わない」という不満が噴出するケースも少なくありません。ここを理解せずに簡単に労働者代表としてサインしてしまうことの怖さを理解しておく必要があります。サインをした後に「お前のせいで給与が安くなった」なんて言われても手遅れなのです。
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