東レ、炭素繊維で大型M&Aに踏み切る「危機感」 最大手の意外な弱点、足りないピース埋める
その最前線が旅客機の分野だ。世界的な輸送人員の増大で旅客機需要が膨らみ、2大旅客機メーカーのボーイングと欧エアバスは、合計で1・3万機もの受注残を抱えている。100席台から200席台前半の中小型機がその大半を占め、両社はそれらの機種の膨大な注文をさばくため、必死になって月産機数を増やしている状況だ。
これに伴って、機体の部品をより早く効率的に量産する必要性が増しており、短時間で成型可能な熱可塑タイプのニーズが増大。ボーイング、エアバスとも、これから本格的な開発を始める次世代機では、小さめの部品を中心に熱可塑CFRPの採用比率を大幅に高める考えだ。
熱可塑タイプで出遅れ
しかし、東レはこの熱可塑CFRPで大きく出遅れている。みずから市場を切り開き、高いシェアを有する熱硬化性のCFRPに研究開発を集中してきたたためで、熱可塑タイプではまだ航空機メーカーから材料認定すら取得できていない。
実は、現時点において、ハイスペックの用途で熱可塑CFRPを安定した品質で大量生産できる企業は世界でごく少数。熱可塑性の樹脂は粘りが強く、まんべんなく繊維に染み込ませるのが難しいからだ。均等に染み込ませないとムラができ、強度などの点で設計通りの品質が実現できない。また、粘着性なので空気が混ざり、内部に気泡ができやすい。
こうした課題をクリアし、先行するのがライバルの帝人だ。炭素繊維メーカーでもある帝人は、熱可塑性樹脂を使ったCFRPに力を注ぎ、2014年に業界の先陣を切ってエアバス旅客機の構造部の部品用に供給を開始。さらに自動車用途でも、米GMが今秋に発売するピックアップトラックの新モデルで荷台構造材として採用が決まっている。
出遅れを挽回するため、東レが是が非でも欲しかったのが、今回買収するTCACの技術だった。同社は早くから航空機用途で熱可塑性のCFRPを研究。すでにエアバスの最新鋭中大型機「A350XWB」のつなぎ留め部品に使われているほか、新規採用に向けた複数のプロジェクトが動いているという。
東レにとって、そのTCACを子会社化するメリットは大きい。剛性に優れ、胴体や主翼などの大型構造材として信頼性が高い熱硬化に加え、今回の買収で小型部品の大量生産に適した熱可塑CFRPの技術が加われば、航空機用途であらゆるニーズに対応できる。また、熱可塑のCFRPは、将来的に炭素繊維の本格採用が期待される自動車用途でも必須の技術だ。
問題は、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)の約20倍に及ぶ買収金額の高さだ。TCACはオランダ企業を中心とする投資集団の傘下にあり、今回は入札方式で売却先を決定。TCACの技術に目をつけた複数社が買い手として名乗りを挙げ、2度の入札を経て金額がつり上がった。
それでも須賀常務は、「まずは航空機、その次には自動車用途でも大きなシナジー効果が期待できる。大きなプロジェクトをいくつか取れれば、これぐらいの買収費用はあっという間に取り戻せる」といたって強気だ。はたしてもくろみどおり、大型買収は吉と出るか。
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