23歳女性ADが描くTV業界の過酷さと悲喜劇 モザイク処理やドングリ集めなどが仕事内容
もちろん悪いことだけではない。信じられないほど沢山の人が観ているテレビを作っているからこその手ごたえもある。そうじゃなきゃこんな大変な仕事は続けられない。
本書では、「#11 プロフェッショナル?? ADの流儀」の中で、真船さんが「一生この仕事 続けたいな」と強く思ったという、あるおばあちゃんとの出会いが描かれている。感動的なエピソードで、それはたしかに彼女がテレビの仕事をしていたからこそ、成し遂げられたことだった。
テレビ局勤めは高給だし、安定もしているし、まぁまぁ華やか。でもそれは一面的で、番組制作の現場は肉体的にはやっぱり過酷である。そんな状況で、ブツブツ文句をいいながらも、敢えて制作部門で働きぬこうと思うのは、心底仕事を愛している人たちだけだ。思えば私がテレ東退社を決めたのも、周囲の人の真剣みに触れ、自分がそこにいることを申し訳なく思ったからだった。先輩たちを見て、自分も本当にやりたい仕事に就こうと思った。
過酷だけど、そして変な人だらけだけど、制作の現場はまっすぐに仕事を愛する人たちに出会える、貴重な職場でもある。
残酷な世界を生き抜くテクニック
世間知らずの女子大生がプロのADになる。それは並大抵のことではない。本書のなかで、面白おかしく描かれたエピソードの、もとになった実際の事件(?)が起きていたとき、そのうちの何度か、真船さんは深刻な顔をしていたはずだ。もしかしたら、涙したこともあったかもしれない…いやないか。
しかしその自分の悲劇を、彼女は少し引いたところから撮りなおすことで、見事に喜劇にした。これは、残酷な世界を生き抜く上での、高等テクニックといえるのでは?
(人生はクローズアップで見れば悲劇 ロングショットで見れば喜劇。)
これは言わずとしれた、チャップリンの言葉だ。真船さんの漫画の魅力は、この言葉のとおりだと思う。
もちろん、「はじっこ」とはいえ真船さんは東京キー局に属するADなので、多くの制作会社に属するないしはフリーのADさんと比較し、恵まれた環境にいることは否めない。けれど、自分の身におきた悲劇を、エンターテインメントに作り変えてしまったその根性に、私はただ、拍手を送りたい。
(文:杉田 千種)
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